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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の焦り(3)

 この二日間、悠真は何度自分のことを愚かだと思っただろうか。今回ほど、愚かだと思ったことはない。悠真は使えない。惣次の石を使えない。感情に任せて、動き始めたけれど、悠真は自分が石を使えなかった時のことを考えていなかったのだ。悠真は二度、紅の石を使った。けれども、思うように使えたことはない。これで術士といえるのだろうか。どんなに焦っても、悠真が無力な小猿であるという事は何もかわらないのだ。

「使えないんだ」

悠真は言った。秋幸が息を呑むのが分かった。

「使えないんだ。俺は、思うように石が使えない」

秋幸の顔が大きく陰り言い様のない哀しみを浮かべた。

「そんな……」

秋幸は悠真のことをどのように思うだろうか。愚かな小猿だと思うだろうか。愚かな小猿に惑わされた己を責めるだろうか。

「ごめん、秋幸。でも俺は……」

悠真が言ったとき、鉄の扉が開いた。赤い夕日は沈み、辺りは薄暗くなっていた。赤の時時間が終わり、辺りを黒が支配し始める。悠真は秋幸の後ろに隠された。秋幸は悠真を守るために隠したのだ。それは、義藤が悠真を守ろうとしたのと同じ。嫌な予感がした。自分の愚かさのために、再び誰かが傷つく予感。秋幸は平凡だ。平凡な印象なのに、佐久と同様の才能を有している。その上、悠真よりも深いところで物事を考えている。その秋幸が悠真を背に隠した。

 決して逆らうことの出来ない「下村登一」を前にして、秋幸は悠真を守るために背に隠した。無力な悠真は何も出来ず、ただ秋幸の背中越しに外の景色を見るだけなのだ。

「何をしておる、秋幸」

それは、忘れることの出来ない登一の声。悠真の身体がこわばった。

「何をしていると聞いているんだ!」

登一の声が響いた。

「出て来い!来なければ、殺すぞ!」

秋幸は立ち上がり、出て行った。悠真も秋幸の後ろを追った。


 外に出ると、既に灯りが付けられていた。登一の後ろには、義藤が倒れていた。そこには、千夏と春市もいた。暗がりの中でも二人の顔の強張りははっきりと分かった。

「秋幸」

春市が秋幸の名を呼んだ。心配するように。責めない優しさを春市は持っている。春市も千夏も秋幸の責めるのではなく、純粋に秋幸のことを心配していた。

「使用人の報告を聞いて来てみれば、どういうことだ?」

登一が春市に目を向けた。登一は苛烈な目で春市を威嚇していた。醜く太り、豪華な衣装に身を包んだ心の荒んだ男。何も信じていない。

「愚か者の秋幸が、冬彦を逃がしたらしい。それで、部屋で何をしている?春市、どうやって責任を取るつもりだ?無力で幼い子供たちを殺すつもりか?」

そして登一は不敵な笑みを浮かべた。他者が苦しむのを楽しむように、気味の悪い笑みを浮かべた。

「秋幸、お前のことだ。何か理由があったんだろ」

春市が秋幸の行動を受け入れていた。裏切りが発覚し、代償を支払うのは秋幸だけでない。春市と千夏も子供たちを大切に思い、子供たちのために隠れ術士となり利用される道を選んだ。全てが無駄になることも知りつつ、二人は秋幸の行動を受け入れていた。

「秋幸。大丈夫よ」

千夏は目を細めていた。春市、千夏、秋幸は下村登一に利用されていた。奴がどのような行動をとるのか、どのような罰を下すのか、想像が出来ているはずだ。それはきっと、悠真が想像するより、ずっと現実的で残虐なものに違いない。それでも、二人は秋幸のことを許していた。そして、秋幸の行動が意味あるものだと信じていた。


 悠真は手の中の紅の石を握り締めた。惣次に語りかけた。紅に語りかけた。四人の隠れ術士と、彼らが守ろうとした子供たちの安全のため、今、術を使わなくてはならないのだ。どんな些細な力でも良い。少しでも使えば、紅が気づくはずなのだ。もう少し。もう少しで、解決への道が開かれようとしているのに、悠真の力が及ばないばかりに道は閉ざされてしまうのだ。焦りが無常にも空回りをしていた。

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