表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
89/785

赤の焦り(2)

 悠真の手の中に、惣次の石が戻ってきた。この石は惣次と共に歩み、惣次を支えてきた石。感極まる悠真をよそに、秋幸は焦りの色を濃くしていた。

「何でもいいから、石を使って。早く紅にこの場を知らせるんだ」

言われて悠真は石を握った。秋幸の焦りが言葉の端々から伝わってきた。裏切りの発覚を防ぐにも、裏切りが発覚したときに支払う代償を少なくするためにも、一刻も早い石の使用が必要なのだ。石を使って、紅にこの場を伝えなくてはならないのだ。

 悠真は石を使ったときのことを思い出した。惣次の石を使ったとき、義藤の石を使ったとき、悠真はそれを思い出した。一刻も早く石を使わなくてはならない。


――赤


悠真は赤に願った。今、力を貸して欲しい。義藤を救うためにも、秋幸たちを救うためにも、悠真には赤の力が必要なのだ。


――赤


悠真は心の中で赤を呼んだ。しかし、赤からの返答はない。無色な声が赤を拒んでいるのか、赤が悠真を見放したのか、真実は分からない。確かなのは、今、術の力を使わなくてはならないということだ。


――頼む、赤!


悠真は願った。義藤を助けるためにも、術を使わなくてはならない。秋幸とともに来た理由は、一刻も早く紅の石を使ってこの場を伝えるためだ。

「悠真、急いで」

秋幸が悠真を急かした。秋幸が急かすから、悠真の焦りは深くなった。


――早く、早く、早く


 もちろん、悠真も急いだ。けれども、分からないのだ。一体、自分がどのようにして石を使ったのか思い出せない。嵐の日、無我夢中で惣次の石を使った時を、復讐の気持ちに駆られて義藤の石を暴走させた時を、悠真は思い出した。心を赤で満たし、赤を願った。


 思えば、好きなときに石が使えれば、義藤を守ることが出来たはずだ。それが出来れば、こんな苦労はなかったはずだ。

「悠真」

秋幸が悠真の名を呼んだ。


――早く、早く、早く!


 悠真の心臓が早く脈打った。どのようにして石の力を使ったのか。どのようにして使えたのか。術士はどのようにして色の力を引き出しているのか。

 野江は簡単そうに紅の石を使いからくりを動かしていた。佐久は息をするように石を使っていた。それは秋幸も同じだ。そもそも術士とは、どのようにして石の力を引き出しているのだろうか。生まれながらの才覚が必要であるが、使い方の基礎や基本はあるのだろうか。悠真は術士のことを何も知らない。


――早く、早く、早く。


出来ない。


 悠真のこめかみを汗が流れた。意識を集中させた。今、使えなければ全てが無駄になる。登一の支配から人を助け出せない。遺体を葬ることさえ出来ない。

 悠真の心に、伊汰の髑髏が浮かんだ。解放してあげなければならない。

 悠真の心に、意識を失った義藤の姿が浮かんだ。義藤を救うには、今、紅の石が使えなくてはならない。


――今、使えなければならない。


悠真は自分に言い聞かせた。しかし惣次の石は、悠真を冷たく突き放すように、何の反応も示してくれなかった。赤の声も無色な声も聞こえない。


――惣次、助けて。


悠真は死んだ惣次に願った。惣次と過ごした二年間、悠真は祖父と酒を酌み交わす惣次をいつも見てきた。惣次は悠真の年の離れた友であり、家族であった。この紅の石は、長年惣次と戦ってきた石。惣次が生きていた証。なのに、何の反応も示してくれない。


――惣次!


悠真は心で惣次を呼んだ。けれども、紅の石は何の反応も示さない。悠真の焦りだけが深まり、焦りと緊張で気分が悪くなるような思いだった。吐きそうなほどの気分の悪さの中、悠真の焦りだけが先走っていた。近くで感じるのは、悠真を急かす秋幸の気配。


 赤の気配は感じない。悠真は赤に見放されたように思えた。火の国は赤の国。赤が高貴な色で民は赤を持つ者が多い。その中で赤に見放されるということは、悠真は火の国に否定されたということだ。悠真の感情は複雑に回っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ