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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と友(5)

――紅の石


全ての鍵を握るのは紅の石だ。


「紅の石だ」

悠真は言った。不思議そうに秋幸が首をかしげた。悠真は続けた。

「紅は石を監視することが出来るんだ。紅の石がいつ、どこで使われたのか監視している。俺が持っていた石。惣次の石を使えば、俺がここにいる証拠となり、朱軍が動くことができる。ここで、惣次の石が使われるということは、ここに俺がいるという証拠なんだ。惣次の石がここにあるということは、あの時、義藤と戦った者がここにいるという証拠なんだ。そして朱軍が動いてここを攻めれば、全ての罪は明らかになる」

秋幸が頷き、悠真の肩を叩いた。

「そうだな……でも、他人の石を使うことは出来ない」

悠真は秋幸の手を振り払った。

「俺は使える。俺は、惣次の石を使って生き残ったんだ。それに、義藤の石を使ったこともある。俺が持っていたのは惣次の石。俺が持っているはずの石。その石が使われれば、俺がここにいる証拠になるはずだ。石はどこにあるんだ?それを使うだけなんだ。それだけで、証拠になる。紅が朱軍を動かすことが出来る」

秋幸は目を閉じていた。何かを深く考えていた。そして、一つ息を吐いていった。

「分かった、悠真から奪った石は奴が持っている。他人の石を使うことは出来ない。だから、俺たちが持っていても無駄だ。だから、奴が持っている。本当に紅が石の監視をしているのなら、石さえ手にすれば、俺たちの勝ちだ。義藤も助かる」

秋幸は立ち上がった。

「石を盗んでみる。もし、戻って来ることが出来なければ、諦めてくれ」

秋幸の覚悟が伝わった。その覚悟が悠真を不安にさせた。秋幸は普通だが強い。普通だから、時に尋常じゃないほどの覚悟を持っている。その覚悟が、秋幸を儚い存在へと見せるのだ。紅城で囮となった義藤と似ている部分があった。悠真は秋幸の友でありたいから、彼を一人にしたくなかった。

「俺も一緒に行く。そのほうが、すぐに石を使うことが出来るから」

悠真は秋幸を一人で行動させることが心配だった。兄弟の気持ちを知る秋幸は、兄弟のために戦うはずだ。一人にすることは出来ない。けれども悠真の申し出を秋幸は断った。

「義藤はどうする?こんな状態で残していけない」

言って、秋幸は義藤の顔を覗き込んだ。悠真は秋幸の肩をつかみ、自分の方を向けた。優しい秋幸が、間違った方向に進まないように。

「分かっている。でも、見つけてその場で使うことが出来れば、失敗する確率は減る。いや、殺されるかもしれないけど、紅たちに証拠を届けることは出来る」

秋幸は悠真の手を振り払った。

「義藤を残してはいけない。義藤を死なせたりしない。悠真。俺を信じてくれ。必ず、石を盗んで戻ってくるから」

秋幸は必ず戻るという。しかし、その言葉に確証は無い。

「大丈夫。義藤は大丈夫だ」

「なぜ、そんなことが言い切れる?」

秋幸の言葉は最もだ。それでも、悠真の根拠の無い自信は揺るがなかった。ここで秋幸を一人にさせるべきではない。義藤は大丈夫だ。根拠の無い自信が、悠真の背を押していた。

「大丈夫だ。義藤は大丈夫。そう、思えるんだ」

悠真が言い切ると、秋幸は再び義藤を覗き込んだ。そして、秋幸は義藤の手をつかみ、右手を見た。

「どうして……義藤……そっか……さすが紅だ……」

秋幸は何かを呟いていた。悠真は秋幸が自分の訴えを聞いていないことに苛立った。

「聞けよ」

悠真は再び秋幸の肩をつかみ、自分の方へ向けた。

「義藤にも時間はない。だから……」

悠真は言った。秋幸と一緒に行く必要があると思ったのだ。秋幸が拒めば、隠れてでもついていくつもりだった。すると、秋幸は悠真の言葉を遮って言ったのだ。

「分かった。義藤はきっと大丈夫だ」

秋幸の言葉に不安は含まれていなかった。何かが秋幸を決意させたのだ。何が秋幸の考えを返させたのか、悠真には分からない。悠真は秋幸の考えの変化に不信感を抱いたが、秋幸が悠真の同行を受け入れただけで十分だった。

「一緒に行こう」

悠真の申し出に秋幸は頷いた。

「義藤、必ず戻るから」

悠真は横たわる義藤に言った。


 悠真にとって、義藤は生きていて欲しい存在だ。義藤は、悠真より年上だけれども、とても親しみやすく大切な友だから。義藤は意識を失っている。この状況で一人にすることは、とても危険なことだと理解していた。しかし、それ以上に秋幸のことが心配だったのだ。義藤は大丈夫だという根拠の無い自信。そして、秋幸が消えてしまうという不安。

 それは、幻覚のためだった。あの時、幻覚の中で義藤と話をしたから、悠真は根拠の無い自信を手にしたのだ。


――義藤、必ず戻るから。


悠真は心の中で義藤に語りかけた。

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