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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と友(3)

これまでの悠真は、友となることに理由を求めてはいなかった。友とは、利益抜きにして必要な存在なのだ。今、悠真の目の前には秋幸がいる。故郷を滅ぼした秋幸だ。


 悠真は深い信頼で結ばれている紅や野江たちが羨ましい。彼らは深い絆で結ばれている。その紅の真の強さを秋幸は知らない。だから、赤い夜の戦いの時に、紅が義藤と共にいないことが理解できないのだ。紅が強いのは、紅の石を使う力でない。悠真は歴代の紅を知らないが、おそらく今の紅のように優れた力を持っていたはずだ。ならば、今の紅の力とは何なのか……。


 陽緋 野江

 朱将 都南

 朱護頭 義藤

 学者 佐久

 師 遠次

 からくり師 鶴蔵

 加工師 柴


 紅は多くの仲間を持つ。あの時、敵の襲来に気づいた紅を守るため、赤の仲間たちは最善の策を練った。紅の強さは、多くの仲間に愛されること。多くの仲間に恵まれたこと。彼らを友と呼べる気さくさ。人柄。それが紅の強さなのだ。


 悠真は紅の強さを知らない秋幸に言った。

「紅は強いよ。俺は、紅のことを、ほとんど知らないけれど、紅がとても強い存在だって知っている」

秋幸は悠真を見た。その目は疑念に満ちていた。

「そういえば、悠真は何者なんだ?どうして、義藤と一緒にいたんだ?」

悠真も無知でない。容易く紅のことを口にしてはならないことぐらい分かっていた。紅の所在や人柄は、全て紅を守るための内密情報だ。けれども、悠真自身のことならば構わないだろう。そう思った。

「俺が紅城へ足を運んだのは、昨日の朝ののことだ。俺は陽緋野江に懇願し、紅城へ足を運ぶことを願ったんだ。野江は反対したさ。俺は選別で術士の才覚を見出されなかった凡人だったし、野江は紅の周囲や術士の世界がいかに危険な世界だと知っていたから。けれども、俺は懇願した。だって俺は、故郷を失ったんだ。俺の故郷は、豊かな海に面した自然豊かな場所だった。そんな故郷に、異常なほど何日も雨が降り続き、裏の山が崩れて故郷は滅びたんだ。俺は嵐が人の手によるものだと気づき、なんとしてでも復讐をしたかったんだ。俺の唯一の家族だったじっちゃんも、大好きだった惣次も、あの嵐のせいで死んでしまったから。あの嵐を巻き起こした人に殺されてしまったから」

悠真は、秋幸の表情が固まっていくことに気づいた。表情は陰り固くなっていく。秋幸の目は動揺のあまり泳いでいた。


 秋幸も、悠真の故郷を破壊した犯人の一人なのだ。

 あの嵐の生存者が目の前にいることを、秋幸はどのように感じるだろうか。

 犯人として、どのような気持ちで被害者に会うのだろうか。


 悠真は語った。惣次のこと、祖父のこと、村のこと、雨が降り続き、故郷が滅びたこと。そして、紅城へ行き復讐を果たすために義藤と一緒にいたことを。


 秋幸の表情が険しくなっていった。とても辛そうな表情だ。秋幸は泣いたりしない。しかし、その唇は小さく震えていた。

「あの村の生き残りなのか……」

全てを語り終えた後、秋幸が低く言った。自らの罪を明らかにすること、自らの業を背負うこと、それはとても難しいことだ。自分自身を冷静に見つめなくてはならないから。

 己の罪を認める潔さを秋幸は持っている。

「俺たちだ」

短く呟いた秋幸の言葉は、何の飾りもいいわけも含まれていない。

「知っていたよ」

悠真は秋幸に言った。故郷を滅ぼした犯人が来ると分かっていたから、悠真は義藤と共にあの場所にいたのだ。悠真は自分が混乱したことを思い出した。秋幸たちを憎む気持ちと、許す気持ちが交錯し、自分の感情が分からなくなったこと。そして今、秋幸も同じように混乱している。

「――俺たちが滅ぼした。憎くないのか?どうして、俺たち助かるように協力するんだ?俺たちは、自分たちの大切な人たちを救うために、他人を殺したんだ。なのに、どうして……」

秋幸は言った。悠真も心の整理はついていない。敵を憎むことが出来なくなった今、どうすればいいのか分からない。けれども、秋幸と友達になりたいという気持ちに偽りはない。

「そんなこと、俺だって分かっている。俺は秋幸たちを憎んでいたんだ。とても、とても憎んでいた。俺にとって、村は全てだったから。けど、今は秋幸たちを憎むことが出来ないんだ。秋幸を、春市を、千夏を、冬彦を、俺は憎むことが出来ない。許すとか、許さないとか、そんなのじゃない。逃げて、考えることを後回して、今は助かることだけを考えたいんだ。俺は死にたくない。義藤にも死んで欲しくない。そして、秋幸たちには生きて欲しいんだ」

俺たちは、友達になれるはずなんだ。悠真は断言した。

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