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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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藤色の不安(1)

 義藤はこれからのことを考えあぐねていた。守るべき存在紅が何かを隠しているのは事実だ。その中で紅は行動を始めた。黒の色神と白の色神が自国へ帰るのは間もなくことだ。火の国は今、騒乱の中にある。続く戦い。露呈する仲間の秘密。傷つく者、仲間に加わる者、そして去る者。その中で、義藤は自らを律し、いつもと変わらぬように振る舞っていた。

 紅が初めた遊戯。中庭に水色の石の力を使って雪を降らせる。ひと時の遊戯を終えて、皆、各自の仕事へと戻っていく。義藤をはじめとして立場のある者は決して暇ではない。紅を守ることだけを考えておけばよいものではない。

 義藤は仕事部屋へ戻り、紙に目を通していた。朱護頭として、朱護たちの当番を決めなくてはいけない。各自の力を判別して、振り分けて。退任した者がいれば、新たな者を、信頼できるものを朱軍の中から朱護へと選出しなくてはいけない。同時に、官府の動きも気になる。火の国は二重政治。色神紅が統治しているわけではない。それでも、民の困り事は紅へ持ち込まれることもある。赤の仲間たちで対処していたが、今は仲間たちが頼りない。歴代最強の術士と称される野江であっても、揺るぐことがある。知識の宝庫である佐久も、恐れを知らぬ獣のような都南も、揺るぐことがあるのだ。だからこそ、義藤は自らを律し、平静を保たなくてはならない。


 野江が鳳上院家の一人娘であっても関係ない。

 柴がかつて影の国の術士として育てられていても関係ない。

 忠藤が赤丸であっても、厄色を持っていても関係ない。

 佐久が何かの秘密を抱えて失踪したとしても関係ない。

 都南が佐久に固執していても関係ない。


 仲間が何であっても関係ない。義藤は義藤なのだから。だが、紅のことは別だ。紅に何かが生じているのなら話は別だ。義藤にとって、紅とはそのような存在なのだ。

 紅は昔から変わらない。義藤が出会ったころから、何も変わらない。誰よりも優しくて、一直線で、責任感が強くて、それでいて強がりな存在。中庭に雪を降らせることも紅らしい。

 火の国では珍しい水色の石を酷使して、義藤の身体には疲労が残る。それでも、雪をみてはしゃいでいる紅を思うと、疲れなど感じられないのだ。


――ありがとう、義藤。私が雪を見るのは、これが最後かもしれないな。


遊戯の時に、紅が義藤に言った言葉が、義藤の中で反芻する。義藤にだけ、紅が伝えた言葉。


「紅、何を隠している」


義藤は赤い羽織を整え、姿勢を正した。


 いつもと変わらぬ毎日が流れていくはずだ。

 黒の色神も、白の色神も、影の国も関係ない。

 関係ない。

 関係ない。


義藤は、目の前にある冊子へと視線を落とし、筆に炭を付けた。自らを律し、平静を保つために。

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