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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と友(2)

 階段から灯りを持った人が降りてきて、悠真は義藤の前で身構えた。敵だと感じたのは、最初のこと。意識の無い義藤を守りたいという願いからの行動だ。

「大丈夫か?」

その声に安心して、悠真は息を吐いた。それは、秋幸だった。秋幸は消えた灯りに再び火をつけ、牢の扉を開いた。普通の印象の秋幸の言動は、どこかで悠真を安心させるのだ。

「義藤は?」

秋幸は一番に義藤の心配をした。

「大丈夫みたい」

悠真が応えると、秋幸は牢に入り、腰を下ろした。

「良かった。千夏がいなきゃ、義藤の身に何かあったときに対応できないから」

秋幸は安心したようだった。幼馴染という理由で、秋幸は義藤を思ってくれている。敵が彼ら四人でなければ、義藤は苦戦することは無かっただろう。彼らはそれほど優れた実力者なのだから。しかし、敵が彼らでなければ、義藤は敵から助けられることは無かっただろう。義藤が四人と戦ったことが幸運なのか、不運なのか悠真には分からなかった。


「二人は?」

悠真が尋ねた。春市と千夏は、紅たちに殺されるのを覚悟で行動している。年長である二人だからかもしれない。悠真はそんな二人が心配だった。春市と千夏は、秋幸と冬彦を助けようとしている。そして、秋幸は彼らの意思を尊重しつつも、自らの死を予測している。すれ違う思いやりであった。

「春市と千夏はもう一度、紅の暗殺に繰り出している。既に、暗殺とはいえないな。だって、俺たちが紅の命を狙っていることが紅に知られてしまっているんだから。知られてしまえば、紅も警戒する。一度目よりも、二度目の方が成功率は低い。例え紅の前に義藤がいなくても、陽緋や朱将が警護に当たるはずだから。そんな中で、再び攻撃を仕掛けたところで負けるのは明らかだ」

秋幸はゆっくりと息を吐いた。その目が空を見ていて、悠真は悲しかった。秋幸は何を思っているのだろうか、そう考えるだけで辛かった。

「春市と千夏はすぐに動いているわけじゃないと思う。きっと二人は今頃準備をしている」

秋幸は言った。そして、少し間をおいて続けたのだ。

「それで、どうして昨日の夜に紅はいなかったんだ?俺たちの計画は外部に漏れていなかったはずだ。もしかして、知っていたのか?だから、紅は隠れていたのか?なら、何で義藤はいたんだ?危険だと知っていて……もし、それが本当なら、紅は全てに覚悟を持ち、己の役割と、敵を追い詰める術を知っている」

悠真は秋幸を見て、彼が頭の良い人だと分かった。秋幸は、紅たちの本心を見抜いているのだ。

 悠真は兄弟を見て、それぞれの雰囲気を感じていた。彼らは異なる性格をしている。だからこそ、上手くいくのだ。互いに互いが足りない所を補いあっている。


 長男の春市は、兄弟から信頼を集めている。長兄という単純な理由だけでなく、表に出さない不器用な優しさがあるから。武将らしい性格で、最も強い力を持つ。


 兄弟のうちで紅一点の千夏は、医学の知識を持つ。春市の隣で、春市とともに兄弟を見守り、親のいない弟たちにとって母のような存在だ。時に厳しく意見を言い、時に包み込むような大きさを持つ。春市も、千夏をとても信頼している。


 秋幸は普通だ。普通という表現が最も正しい。特殊な力を持っていると思えないくらい普通で、悠真よりも年上なのにとても気さくだ。言葉も普通。態度も普通。なのに、時折、驚くほど深い場所で物事を考えている。今回の紅の件もそうだ。そして、春市と千夏の覚悟を分かっているから、悠真と共に残った。


 冬彦と悠真はほとんど言葉を交わしていないが、冬彦が紅の元へ行ったことで彼の人となりが分かる。末の弟だからかもしれない。無茶をする性格。無鉄砲とも思える行動は、時に固まった兄たちの足を動かす力を持つ。一直線で、感情に正直。そんな印象。


 悠真は秋幸に目を向けた。秋幸は悠真の目の前にいる。年は悠真の二つ上で、十八のはずだ。秋幸と親しくなりたい、秋幸の友になりたい、そう願うのは悠真の本心だった。

 故郷にいたころは、誰かと友になることに躊躇うことなど無かった。なのに、悠真は躊躇っていた。


 ――秋幸がもうすぐ命を落とすかもしれないから?

 ――秋幸が故郷を破壊したから?

 ――秋幸が紅の敵だから?


 いずれにしても、臆病者の悠真は踏み出すことが出来なかった。

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