赤の行動(3)
野江はゆっくりと口を開く。
「紅城は、変革の時を迎えたわ。紅が変わることを始めたのよ。まるで、一刻を惜しむように、紅が動き始めた。きっと、紅は考えていたのでしょうね。聡明な紅のことですもの。考えていたけれど、時を見て、待っていた。その時が来たのかどうかは、わからないけれども、紅は動き始めたのよ。秋幸、悠真。あたくしたちは、紅を信じて動くだけよ。だって、そうでしょ。あたくしたちは、赤の術士なのですもの。紅から赤を与えられた、赤の仲間ですもの」
野江はさらに続けた。
「おそらく、黒の色神と白の色神は自国へ帰るわ。そうすれば、紅城は平穏に戻るのかしら。いえ、違うわ。時は動き始めたのよ。わずかだった赤の仲間は、数を増やしたわ。きっと、良い方向に進むに違いないわ。秋幸、悠真。あなたたちの存在を含くめてね」
野江は紅城を支えてきた人だ。だからこそ、野江は気づいている。悠真も感じている、紅城のわずかな空気の違いを。もしかしたら、赤の仲間たちは気づいているのかもしれない。けれども、大人な彼らは何も言わない。平静を装う。悠真はそれが、とても大人なことのように思えた。
黙していた秋幸が口を開いたのは、野江が話し終えてから少し間を置いたのちだった。
「野江、あなたは紅城を守ってきた存在だ。先代のころから、ずっとこの紅城で術士として生きてきた。あなたは、なぜ、これほどの変化が急激に起こっていると思いますか?」
とても平凡な色をしていたはずの秋幸。その平凡さに、奥行きが加わる。とても深い。悠真はその深淵に立っている。
「秋幸、あたくしにそんなこと分かるはずがないでしょう。あたくしは、ただの術士。ただの陽緋。色神たちの考えの少しも分からないわ。あたくしよりも、ずっと幼い紅が考えていることが、紅の見ている未来が分からない。それでも、あたくしは、紅の考えに否とは言わないのよ。あたくしは、紅を信じているのよ。あたくしが命を預けるのは、そういう存在なのよ。――それにね、秋幸。それが、大人というものよ。分からないことも、分かったふりをして、無理にでも納得するの。あなたにも、できるようになるわ。とことん考えることが若さなら、無理にでも納得するのが、大人なのよ」
野江は、とても美しく微笑んだ。