赤の行動(2)
悠真はそれでも秋幸の近くにいたいと思った。それは悠真の直感だ。悠真は秋幸と離れてはいけない。そう、思うのだ。
紅が柴と義藤に雪を降らせた中庭は水でぬかるんでいた。植木の根本にわずかに残る白い雪が、一時の遊戯を想起させる。悠真は秋幸と一緒にいた。彼は何も語らない。だから悠真は、秋幸の横にいた。
季節外れの雪は、すぐに溶けて消えていく。切望されて生まれてきても、時期が違えば消える定め。悠真は、溶けて消えそうな雪をみて、秋幸を思った。世で本望を果たすには、生きる時代も必要だ。先代が仲間に恵まれず、その優れた才能を活かせなかったように、物事を成し遂げるには、生きる時代が大切となる。悠真が強く美しい赤の色神紅の世で無色を持ち生まれたのは、偶然ではないのかもしれない。異国であれば、悠真の命はなかったかもしれない。無色が、この時代のこの国の悠真に己の色を与えたから、悠真はここにある。ならば、今、秋幸がここにあるのも必然だ。美しく強い赤の色神の元であれば、多くの術士は幸せに生きることができる。
――ここで生きるには意味がある。
悠真は紅を思った。彼女は必要とされている。この時代を動かすのに、彼女の力が必要なのだ。
「まだ、こんなところにいたのね」
穏やかな声が響き、悠真は思わず振り返った。降り注ぐ光の下で微笑むのは、火の国で最も優れた術士、野江であった。野江の赤い羽織が日を反射する。赤が美しく輝く。
「野江……」
悠真は彼女の名を呼ぶことしかできなかった。先の戦いで野江は傷ついた。そして、その強さを再び示したのだ。まぎれもなく、火の国の陽緋は野江なのだ。
「今まで、あたくしが術の使い方を教えていたけれど、これからは変わるわ。それで、あなたたちは強くなる。特に、秋幸、あなたはね。紅の言葉に間違いはないわ」
悠真が驚き、秋幸に目を向けると、彼の体がこわばるのを感じた。
悠真はこれから何が起こるのか、考えることもできなかった。