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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の流れ者と色読(10)

 アンナはサクフェリアスという人間を忘れようと努めた。目の前にいるのは、流の国の同胞ではない。彼は、火の国の民なのだ。


「佐久はどうして、こんなところに?」


アンナの問いに、紫の石を渡せば答えると言った佐久は苦笑した。

「僕は弱虫だからね、怖くなったんだよ。僕という醜い人間の正体を、大切な仲間や紅に知られてしまうような気がして、僕は怖くなったんだ。」


佐久は深く息を吐き、言った。

「おいで、アンナちゃん。僕の隠れ家に案内するよ」


佐久の乗る椅子が進み始めた。アンナは佐久を追った。木の根などの障害物に出くわすと、椅子は宙に浮く。まるで、椅子は佐久の足だ。


「この紅の石は、先代の石だから、今の紅に見つけ出すことはできない。醜いね。僕はこうやって、先代の石を隠し持ち、いつでも逃げだせる準備をしていたのだから」


まるで、吐き出すようにアンナの前を進む佐久は言った。いつの間にか小川から離れ、佐久は森の奥へと進んでいく。




「この森は不思議でね。術士でないと五感を惑わされて、目的とする場所にたどり着くのは難しい。そのためか、開発の手も入らず、都の近くでありながら、この樹海は残されている。神が住むだとか、そういう言い伝えもあり、近寄るものはいない。こんな場所に足を踏み入れるのは、無知な命知らずか、自殺志願者か、罪人か……。そう考えると、僕も罪人だ。流の国から送り込まれた罪人」


佐久はアンナの前を進む。アンナは何も答えることができない。ただ、佐久の言葉を耳にしていた。まるで、懺悔のような佐久の言葉。


「分かっていても、心に吹きすさぶのは、仲間から蔑まれるのではないかという不安。分かっていても苦しくなるのは、仲間から見捨てられる不安。こうやって、逃げれば、逃げるほど、仲間は僕を疑うに違いないのに……」


苦しみの海にもがくように、佐久は言った。アンナは胸が締め付けられるような気がした。



「分かっている。紅が、そのような人ではないことを。分かっている。己の行動がどれほど愚かな行動なのか。でも、不安が衝動的な行動をさせる。己の存在価値が根底から覆されるような不安が……。今でも思う。二年前に命を落とせばよかったと。それでも、この生にしがみついているのは、仲間と生きたいという利己的な理由」


アンナは何も言えない。アンナという荷物を拾っても、拾わなくても、佐久は何も変わらない。まるで呪縛のようだ。何かが佐久という人間の自由を奪っている。


――流の国


アンナは佐久をとらえているものを、それ以外に考え付くことができなかった。

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