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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の流れ者と色読(9)

 アンナは二つに割られた紫の石を取り出し、木の椅子に腰かけたサクフェリアスに渡した。

「ありがとう、アンナちゃん」

サクフェリアスは微笑んだ。それは、人の好きそうな笑顔だ。


「サクフェリアスは、どうしてここに……?」


アンナはサクフェリアスに尋ねた。彼が火の国の重鎮であることは間違いないだろう。それほどの力を持つ者が、一介の術士のはずがない。間違いない、彼は赤の色神「紅」と近しい存在。そのサクフェリアスが、一人でこの森の奥にいることは、とても不自然なことだ。


「サクと……」


言って、サクフェリアスは、紅の石を取り出すと手近な木の枝に向けた。すると、木の枝はグニャリと溶けるように折れて、椅子に腰かけたサクフェリアスの膝の上に落ちた。サクフェリアスはその枝をとると、ぬかるんだ地に字を書いた。


――佐久



サクフェリアスは言った。

「もう、サクフェリアスという人間は存在しない。今、アンナちゃんの目の前にいるのは、火の国の赤の術士、佐久だよ。先の紅の時代には、朱護頭として紅の近くにいた、赤の術士佐久だ。僕は、流の国の民じゃない。赤の術士なんだ」

佐久は言った。それはまるで、佐久が自分自身に言い聞かせているようであった。


 サクフェリアスは、間違いなく火の国の民だ。もし、流の国と火の国が争うことがあるとすれば、サクフェリアスは佐久として、火の国の赤の術士として戦うだろう。それが、長い年月、流の国から離れて、一人で火の国で生きた彼の生き様だ。サクフェリアスが火の国の民となったことを憎むものがいるとすれば、彼を変えた年月と、この火の国にサクフェリアスを送り込んだ、当時の判断を憎むべきだ。サクフェリアスが佐久となるのは、至極当然のことのように、アンナは思った。

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