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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の流れ者と色読(8)

 サクフェリアスはぬかるんだ地に苦戦しながら、何とか身を起こした。彼の近くには、木造の車輪がある椅子があった。サクフェリアスはその椅子に座ると、紅の石を取り出した。そしてサクフェリアスが紅の石を使うと、木造の椅子の車輪が動き始めるのだ。押してもいないのに、車輪が動き、椅子が動く。その椅子がアンナに近づいてきた。


「おいで、アンナちゃん。君をこのまま、残してはいけない。もし、君が火の国に牙をむくのなら、僕は君を逃がすことはできないからね。――それと……流の国と通じている紫の石を出してくれるかな?言葉の分まで奪ったりしないさ。だから、流の国と連絡をとることはさせられないんだよ」


サクフェリアスは言った。アンナは分からなかった。サクフェリアスは身体が不自由なのかもしれない。手も動いていた。歩いてもいた。けれども、サクフェリアスはこのような椅子に座っている。そして、アンナが気になるのはもう一点。椅子はどのように動いているのだろうか。何が動力なのか。どうやって動いているのか……。


「アンナちゃん。紫の石を出してくれるかな?そうすれば、僕は、君が抱いているいろいろな疑問に答えてあげることができるかもしれないよ」


緑の木々の葉の間から、光が零れ落ちた。キラキラと、零れ落ちる光は、地に溜まった水に反射した。不思議だった。雨がすべての汚れを洗い流したように、周りがとても美しく見えた。

 こんなにキレイなものをアンナは見たことがなかった。流の国の石畳が、これほどまで美しく見えたことなどなかった。濡れて重くなった着物も、顔にはりつく髪の毛も、不快ではなくなった。背にあたる日の光が暖かい。


――ああ、これが火の国なのだ。



アンナは思った。知識だけで知っていた火の国。四つの季節があり、水が豊かな、小さな島国。閉ざされた島国の中で、人は一生を終える。貿易をする流の国の民では想像ができない。想像するだけで、閉塞感に襲われる。無理に開国を迫ることが火の国のためでないことは事実だ。サクフェリアスは知っているのだろう。火の国で長い年月を生きたサクフェリアスは、アンナよりも火の国のことを知っている。きっと、火の国で生じている異変も気づいている。


――火の国では何かが起こっている。


アンナが流の国で感じた異変。黒と白の来訪。無色の存在。いろいろなことが生じるだろうが、アンナが口に出すことではないように思えた。これは火の国の問題。この問題に関わるべきはアンナでなく、火の国で生きるサクフェリアスなのだ。

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