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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の流れ者と色読(5)

 アンナは聞かされていた。サクフェリアスという名の、優れた術士の名を。閉ざされた火の国に住み着き、赤の術士となった男。天才という名をほしいままにした男。

「流の国が、閉ざされた神秘の島国火の国へと送り込んだ天才術士。サクフェリアス。あなたが、サクフェリアスなのね」

アンナの心は何かで満たされた。


 もしかしたら、アンナは孤独だったのかもしれない。火の国へと足を運ぶと決めたのは、アンナだ。たった一人で異国へと出向いたアンナは、とても孤独だったのかもしれない。今、流の国の天才術士サクフェリアスを目の前にして、アンナの心は温もりで満たされた。アンナの目の前にいる、この人は、アンナと同じ国で生きていた人だ。アンナの知るメディラを知り、アンナと同じ食べ物を食べ、アンナと同じ町で生きていた人だ。ただ、それだけのことがとても嬉しい。


「懐かしいね。僕はサクフェリアス。その名で呼ばれたのは、何年ぶりだろうね。僕はもう、流の国で生きていた時より、この火の国で生きていた時間の方が長いのだから。――この、流の国の言葉なんて、忘れてしまったと思っていたのに、こうやって簡単に思い出せるのだから、僕と流の国の縁はまだ途切れていないんだね」


サクフェリアスの黒い目が、とても優しくほほ笑んだ。アンナと同じ黒い目だった。


「君は、流の国の民。火の国には僕がいるのに、流の国は君を送り込んだ。僕が信頼されていないのか、君が無謀なのか、君がとても優秀なのか、それは僕にはわからない。でも、一つ確かなことがある。流の国へ帰るんだよ。ここは火の国。流の国の思うようには動かない」


サクフェリアスの声はとても優しいのに、計り知れない威圧感があった。

「私はアンナよ」

アンナはもがくように体を起こした。忘れてはいけない。サクフェリアスは優れた術士だ。一人で、閉ざされた火の国で生き延びてきた。メディラが言っていた。サクフェリアスの力は、流の国の中では一二を争う。その力が、今も流の国の味方とは限らない。サクフェリアスは、もう、流の国を捨てて、火の国の民となってしまったのかもしれないのだから。


「アンナちゃん。流の国では珍しい響きの名前だね。その黒い髪も、その黒い目も、流の国では珍しい。アンナという響きは、火の国の名である。アンナ、安奈、杏奈。もしかしたら、君の起源は火の国にあるのかもしれないね」

サクフェリアスの声は、アンナの心に沁みるように穏やかだった。

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