火の国の流れ者と色読(4)
赤色は光り輝く。
アンナは思った。
ああ、ここは火の国なのだ。
赤の守る火の国なのだ。
熱を持つ赤。
赤が体の中を脈打って流れる。
夢を見た。
母の腕に抱かれている夢だ。
母の腕はとても力強く、そして温かい。
この、黒い髪が嫌いだった。
この、黒い目が嫌いだった。
人と違う。
それが嫌いだった。
アンナの目に黒い髪をした人影が映った。
前髪の間から、黒い目がのぞく。
ああ、ここは火の国なのだ。
赤の守る火の国なのだ。
この場所は、赤であふれている。
「********」
温かい声だ。優しい声だ。アンナには、何を言っているのかわからない。その声を聴きながら、アンナはようやく状況を理解した。
息を大きく吸い込む。
肺が空気で満たされる。
生きているのだという、実感が湧いてくる。ぼんやりとした意識の中、ようやく状況を理解ができた。ここは火の国。赤の国。アンナはここに、探しに来たのだ。
アンナは救われた。この、目の前の男に、救われたのだ。間違いなく、彼は術士だ。アンナが川の中でみた、赤色は、彼の力に違いない。
白と黒が動いている。二つの力のある色が、同じく力のある赤の国へこぞって足を運んだ。色には力がある。黒、白、赤。ほかにも力のある色はある。黄、そして青。人には、一色がある。火の国には、赤に近しい色を持つ者が多い。それは、術士でなくても同じだ。
不思議な色だった。
赤だった。
でも、他の色のようにも見えた。
「********」
聞き取れない。紫の石がないからだ。使わなくてはいけない。
「君は、流の国の民だね」
アンナを救った男は言った。アンナの耳に、その言葉の意味は届く。当然だ。彼は、流の国の言葉を話しているのだ。
「雪の国でも、宵の国でもない。ならば、流の国だね」
「サクフェリアス……」
アンナは思わず口にした。それは、流の国で聞いていた名前。それは、流の国で教えられた名前。火の国にいる、流の国のスパイ。その男の名だ。
「そうだね、そう呼ばれていた時もあったよ。懐かしいね……」
男は優しく微笑んだ。