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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の流れ者と色読(3)

 アンナは川辺に蹲った。ひどい吐き気に襲われていたのだ。色にあてられたのだ。色に酔うという表現でもよい。

 流の国は色神を有していない。だから、アンナは色神の気配に慣れていないのだ。色神は人とは違うということを痛感した。人を凌駕した色の使い方をする。黒の色神は暴走している。それは間違いないことだ。それを抑えている優しいが強い赤色は、いったいどれほどの力を持っているというのだろうか。

 アンナは気持ちが悪くなり、川辺に座り込んだ。吐き気を抑えるために水が飲みたくて、澄んだ水に手を伸ばした。火の国は自然豊かな国だ。雨がアンナの体力を奪っていく。いつの間にか、黒の色神の暴走は消えていた。それでも、アンナの気分不快は治らず、それもひどくなっているような気がした。水へ手を伸ばし、透き通った水を手に救おうと身を乗り出した。


 何が起こったのか、アンナは冷静に理解した。

 天と地が入れ替わり、それはアンナに死を告げるもの。


 冷たい水の中は、白い気泡が浮かんでいる。

 体は空気を求めている。


 なのに、アンナは不思議な気持ちがした。透き通って冷たい水は、流の国にはない水だった。流の国は沿岸部に属しているため、流の国を流れる川は上流の国の排水が混じっているのだ。

 冷たく、澄んでいる水。それは、火の国を表しているようだった。異国にけがされることなく、火の国は火の国を守っている。自国を守るということは、とても難しいことだ。色神を有さない流の国の色読だからこそ、アンナはそれが分かる。


 アンナの目の前に色が迫った。火の国を守る赤色だった。


 アンナは再び呼吸をしようともがいた。しかし、アンナの体は浮かない。体に力が入らないのだ。何のために、火の国に来たのだと、アンナは思った。遠路はるばる火の国まで足を運び、そして火の国で命を落とすのだろう。


 アンナは流れ者。

 水に流されて命を落とす。


 どこにも属さす、どこからも邪魔者にされ、色読としての力がなければ存在価値はない。

 救ってくれた流の国に何も返すことができないまま……。


 アンナは赤に包まれていた。何とも言い難いほどの赤色だった。

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