火の国の流れ者と色読(2)
アンナは黒の色神が暴れていることを感じながら、現場に駆けつけるかどうか迷った。黒の色神と戦っているのは、赤の術士だろう。その近くに無色の存在を感じた。アンナは特殊だ。アンナは人の一色を見ることができるのだ。だから、優れた色読なのだ。雨が降っている。雨は強くなり、アンナの体を濡らした。
無色の一色を有する者を危険にさらすことはできない。だからアンナは無色のもとへ駆けつけるかどうか迷ったのだ。正確な距離はわからない。それでも、アンナにも何かできるかもしれない。
――しかし……
アンナは躊躇った。雨は強さを増し、アンナの体を濡らしていく。
アンナは術士だ。色読だ。しかし、アンナは戦いの経験がないのだ。術を使うことはできる。しかし、術を使って戦った経験がないのだ。黒の色神が暴れている。応戦している赤の術士もかなりの使い手だろう。それは、優しいが強い赤色が膨れ上がっていくから確かだ。そして、赤が黒の押されているのも事実だ。
優れた術士が、火の国で無色の護衛をするほどの術士が追いつめられる。その相手にアンナが戦いで適うことができるとは思えなかった。
火の国の術士は優れた存在だ。戦いにも適しているはずだ。その戦いの果てで赤の術士が黒の色神に敗れるのならば、アンナが助けに駆けつけても無駄だということだ。
相手は黒の色神だ。戦乱の宵の国を統一した実力者、黒の色神なのだ。だからアンナが助けに行ったところで、無駄なだけ。
アンナは色が争う方向を見た。抵抗する赤も、かなりの実力者といえるだろう。もしかすると、赤の術士は無色を逃がしきれるかもしれない。メディラがアンナを次の色読にしようとしているのは、アンナの目だ。アンナは人の一色をみることができる。これは、流の国でもアンナだけの能力だ。だから色図から、色の世界の乱れを誰よりも早く見出すことができる。
黒が暴走している。アンナは背に汗が流れる感覚を覚えた。それは、暑さのためでない。アンナは底知れぬ恐怖を覚えたのだ。黒がこれほどまでに恐ろしい色だと思っていなかったのだ。
――もしかしたら、赤は食われるかもしれない。
――赤は無色を守りきれるのだろうか。
アンナは、ただ不安だった。それでも、助けにいくことはできない。