火の国の夏に降る雪は白く積もる(18)
赤の色神は雪の積もる庭へと駆け降りた。赤い着物に白い雪がかかる。黒い髪にも白い雪がかかる。何とも言えない光景だった。
「白の色神」
ふと、黒の色神がソルトを呼んだ。
「私はソルトよ。クロウ」
ソルトは黒の色神がクロウと呼ばれていることを知っていた。
「ああ、そうだなソルト。ソルト、俺は宵の国へ立つ。ソルトはいつ出立する?冬彦がいても、心寂しいものだろう。近くまで送ろう」
黒の色神ことクロウは、不思議な男だった。
ソルトは黒の色神が宵の国を統一した実力者だと知っている。そのクロウがなぜ、火の国へ来訪したのか、不思議だったのだ。
「そこまで、甘えていいのかしら……」
ソルトは分からなかった。白が黒に食われるという恐怖はなくもない。
「ソルト、俺は宵の国を統一した。しかし、国で頼れる者は一人しかいない。ソルト、俺は火の国へ来た。もちろん、隙があれば赤を喰おうという気持ちもあった。しかし、それ以上に答えを探すことが優先だった。宵の国を統一するまでは、統一することが目的だった。だが、目標を達してしまえば、あとはむなしいものだ。宵の国という大国をどのように持っていけばよいのか、どこへ持っていけばよいのかわからないんだ。俺は、火の国で答えを見つけた。それはきっと、ソルトも同じだろう。紅の実力は本物だ。戦うこと、仲間を思うこと、仲間と歩むこと、そして冷静に、平等に判断すること、未来を見据えること、紅はその重圧と戦いながら火の国を導いている。俺は、紅に魅了されているのかもしれないな。だから、これから起こることを考えたくない」
クロウが何を言いたいのか分かった。倒れた紅。何かが起こっている。何かが起こっているから、現実を見るのが怖いのだ。それはもちろん、ソルトも同じだ。
「赤の色神は一体……」
どうなるのか、という言葉をソルトは飲み込んだ。これ以上立ち入ることは、無礼なことだ。赤の色神は優れた色神だ。彼女の私事にまで、立ち入る権利は、たとえ同じ色神であっても有していないのだ。それが、どこか悲しい。
命を扱う白の色神。なのに、真に救いたい命は救えないのかもしれない。