火の国の夏に降る雪は白く積もる(17)
赤影が何を意味するのか、ソルトにはわからないが、その響きから想像することはできる。赤影は裏の存在だ。影の国と同じ。
「異論があれば、言ってくれ。安心しろ。赤影にも、よく話しておく」
赤の色神の言葉に、萩は首を横に降った。
「ここに命がある。自由に判断することができる。それに、赤影が不幸な存在ということではないでしょう」
赤の色神は優しくほほ笑んだ。
「萩、杉、松、ベルナ。お前たちが表で生きるのは今日で最後だ。本来なら、赤影にいることすら知られてはならないが、そのぐらいの慣習は無視しても許されるだろ。義藤が頑張るから、雪で遊んでくれ。――それと、赤影は赤を与えられる。それは、私と近しい存在となるからだ。萩。お前は赤萩。杉は赤杉。松は赤松。そしてベルナは赤砂。名を捨てるということは、苦痛なことだ。それでも、それは赤影の慣例。さすがの私も、そこまで無視できないからな。今日の雪は、冬彦と、お前たち新たな赤影の旅立ちだ」
どこか、焦っているかのような赤の色神の言葉だった。
一人、庭に降りたのは青の石を使っている柴だった。
「お前たちも来い。義藤がへばる前にな」
柴は悠真らを手招いた。おおらかな柴らしい動きだ。
柴は不思議な雰囲気を持つ。大きく、包み込むような優しさだ。そのおおらかさに導かれるように、悠真が中庭に降りた。そして、冬彦が。遠慮がちに野江らも続く。何とも言えない宴会だ。
「夏の雪見とは、風流というか、なんというか」
義藤が何も言わずに赤の色神の横に来たかと思うと、口にした。
「楽しいだろ」
赤の色神はけらけらと笑った。
「何を焦っている?」
まるで、ささやくような義藤の声だが、ソルトも耳にはなぜか届いた。
「焦ってなどいないさ」
赤の色神は答えた。
「萩らを赤影に入れる。それは正しい選択だろう。だが、今までもお前なら、そこまで急な動きはしなかっただろ。何を焦っている?」
義藤の声は静かだ。赤の色神への忠義が見て取れる。
「しなければならないことが、私にはたくさんある。それをしているだけさ」
言って、赤の色神は義藤の背を叩いた。
「白の色神、黒の色神、火の国が窮地に立たされたとき、赤の術士が道に迷ったとき、私の力が足りぬ時、どうか、火の国と仲間たちをよろしくお願いします」
赤の色神の強い覚悟が見て取れた。