火の国の夏に降る雪は白く積もる(16)
中庭に雪は積もる。辺りはしんしんと冷えていく。薄手の着物であるソルトも体は冷え始めたが、あまり気にならなかった。高い空から雪が降る。何とも美しい。
「積もったなぁ」
突然、鮮烈な赤がきらめいた。どこから現れたのか、ソルトにはわからなかった。まるで神出鬼没。赤の色神はそんな人だ。
「秋幸もすぐに来るさ」
赤の色神が秋幸と何を話したのかわからない。だが、ソルトが立ち入る話でないことは確かだ。赤の色神は、人に近しいようで、どこか一線を引いている。
「萩、お前たちは大丈夫か?」
赤の色神は、鮮烈な赤色をこぼれるように辺りにふりまきながらほほ笑んだ。
「ありがとうございました」
言って、彼らは床に膝をついて頭を下げた。
「いいや。問題なさい。お前たちは火の国の民だ。火の国の民である以上、私は皆と同じように守るさ。――だがな、萩。春市や千夏らは表の術士として受け入れたが、お前たちはそれはできない。分かってくれるな」
ソルトは赤の色神の言葉の意味が分からなかった。
「紅、お前は何を考えている」
遠爺と呼ばれた初老の男が言った。紅はけらけらと笑った。
「これは、私の独断だ。誰に相談もしていない。萩らは赤影として受け入れる。特に、ベルナは火の国では目立つ。生きるには、裏の方がいいだろう。理由はそれだけじゃない。今のところ、影の国からうまく逃れているが、影の国が萩らが生きていることに気付くことがあるかもしれない。そうなれば、影の国との戦争だ。私はそれを避けたい。表の世界で自由に生きてくれ、と言いたいが、萩。すまない。それは言えない。赤影として、生きてくれ」
赤の色神は行動力のある色神だ。その行動力をソルトは目の当りにした。