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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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火の国の夏に降る雪は白く積もる(15)

 ひらひらと雪が舞い始めたのは、少し後のことだ。白い雪が美しい庭園の木々や石の上に舞い落ちる。落ちては溶ける雪。しかし、溶ける早さが少しずつ遅くなる。


「何とも美しい雪ですね」


アグノが言った。今、アグノは紫の石を使っていない。聞き取れないのか、術士でない人たちは首をかしげた。


「そうね。雪の国のようね」

それでもソルトは答えた。

「私はもう、雪の国へ帰ることはないでしょう。ですが、ソルト。私はここで生きる道を見つけました」

ソルトはアグノを見つめた。アグノは何を思っているのだろうか。アグノはソルトの一番の理解者だ。そのアグノに頼る以外、ソルトには生き残る道がなかったのだから。しかし、これからは違う。これから、ソルトは冬彦と歩むのだ。どこか、寂しいのは、アグノがソルトにとって父のような存在だったからかもしれない。現に、遺伝子上は父親でなくても、ソルトのもっとも近くにいて、ソルトを守り続けてくれたのはアグノだけなのだ。


「火の国は美しい国です。雪の国の医療技術が、火の国でも活かされることでしょう」


アグノは優れた医学博士だった。だったに違いない。医学院の中で、アグノほど優しい一色を持っている人はいないのだから。命を救いたい。そんな純粋な気持ちを持った人なのだ。


「アグノ、本当にありがとう」


ソルトは思わずアグノに話した。


「いえ、ソルト。私は、ソルトと出会えて、私自身の生きる意味を見つけたのです。白の術士でありながら、医師でありながら、私は医学院で非道な実験に携わっていたのですから。ソルト、私は実験体だった、ソルトの母と出会いました。私は彼女を愛しました。彼女を守りたいと思いました。それでも、私にはその力がありませんでした。その頃からです。私は、命について考えるようになったのです。私は彼女を救おうと画策しましたが、それもかなわず、彼女は命を落としました。それからの私は、あなたが生きがいだったのです。あなたが白の色神となり、ソルトとなったってうれしかったのは、あなたが苦しむ姿を見ずに済むからです。非道な実験で命を落とすことがないと分かったからです。ソルトが幸せになること。それだけが、私の生きがいなのです。私は火の国から祈っています。ソルトの幸せを祈り続けています。――雪の国に帰りたいとは思いません。私は火の国に必要とされています。そして、ソルトに、もう、私の庇護は必要ありませんから」


アグノの優しが、ソルトの中に満ちていくようであった。

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