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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の幻覚(2)


 夢を見た。


白い煙の中の義藤は徐々に消え、悠真の目の前から全てが消えた。


 夢の中に色は存在しなかった。色の無い世界は、何も無い透明な空間が永遠と広がっているのだ。白かと思えば、黒になる。黒かと思えば青になる。色が無いということは、見方によっていろんな色に見えるということだ。そこは不思議な世界。

――悠真

夢の中で紅が悠真を呼んだ。そこは色の無い世界。


 聞こえる声が赤の声かと思って、悠真は目を凝らした。鮮烈な赤を、高圧的な言葉を、悠真は待った。義藤を守るために叫んだ赤は、今何をしているのだろうか。

「赤?」

赤い髪を、赤い唇を、赤い瞳を、悠真は待った。赤い声を、赤い空気を待った。高圧的で、強い力を持った赤が現れることを待った。

――あなたは赤に染まりすぎている。駄目よ。赤だけに染まっては駄目よ。赤は常に悠真を狙っている。それでも、一つの色を選んでは駄目。力を貸してくれるというのは今だけのこと。聞いてちょうだい。

それは紅の声だが、紅でない。悠真はすぐに分かった。それは無色な声。

「誰なんだ?」

誰か分かっているけれど悠真は無色な声に尋ねた。

――大丈夫よ。全ての色があなたを狙い、あなたに従うわ。あなたは私が選んだ、私の色を司る人間。また、会いましょう。

色の無い無色な世界は、無色な声の世界だ。


 悠真は色の世界を思った。赤を思った。

「待てよ!」

呼び止めたのは無色のことだ。

「待てよ。あの時、俺が赤に染まることを拒んだのは、あんたなんだな。あんたが、義藤を!」

悠真に赤に染まるな、という声。その声が赤を拒んだのはあきらかだった。

――おだまりなさい。

声が悠真に言った。

――あなたは、何も知らないの。

姿も見せない声が悠真を叱責した。

――あなたは自分のことを知らない。

姿も見せない声が悠真に告げた。

――はっきり言って、私にとって紅や義藤はさして興味もない存在なのよ。今の紅は良い子だと知っているけれども、あなたと比較するのなら、私はあなたを選ぶ。分かってちょうだい。

悠真は愕然とした。この声の主が誰なのか、皆目検討もつかない。ただ、悠真にとって好意的であることは事実だ。

「分かんないよ。一体、何がどうしたっていうんだ?」

何も無い空間。様々な色がめぐる場所で、悠真は声に問うた。声は姿も見せずに答えた。

――私を狙う色は多いわ。赤もその一人。けれども、私が赤の国である火の国に姿を見せたのは、どこかで赤を信頼してるかもしれないわね。分かってちょうだい。あなたは存在を知られたの。赤だけじゃなく、全ての色にね。このような危機は序の口よ。私はあたなを気に入っているの。簡単には手放したくないのよ。

悠真は理解できなかった。

「どういうことなんだ?」

問うた悠真に声は笑った。

――私は他の色に捕まるわけにはいかないの。赤が気に食わない紅を殺したように、私もあなたを殺すかもしれないわよ。

悠真の思考を言葉が飛び交った。己が殺される。この声の主に殺される。

――私はあなたの色。そして、あなたは私の色を司る人間。気をつけなさい。

悠真は声に尋ねた。

「俺は術士にもなれない存在だ。何がどうなってこうなったんだ?」

悠真は赤の術士に憧れていた。自らに術士の才覚がないと知った時が、悠真にとって最初の挫折だといえるだろう。

――姿を見せるつもりは無かったわ。本来なら、私の色を持つ人間は普通の人間として生涯を終えるのよ。けれども今回は仕方なかったの。あなたを助けるために、私は姿を見せ、赤に染まった。あなたの感情を抑えるために、赤に染まり紅の石を暴走させた。それでも、私は赤に染まっては駄目なのよ。

「何で、赤を嫌うんだ?」

声は悠真に教えた。

――赤を嫌っているのではないのよ。私は何色にも染まることは許されないの。何色にも覇権を握らせることは出来ない。赤は、強い色だという人もいるけれども、本当は違うのよ。赤は愛情深い色。だから、義藤を守ろうとするの。愛情深い赤が選んだ色神紅だから、あなたを助けてくれるのよ。

「赤を嫌っていないのに、どうして赤を拒むんだ?赤はあんなに叫んでいた。泣いていた。義藤を守ってくれと叫んでいた。なのに、なのにどうして?」

悠真の言葉に声は黙った。そして、しばらくしてゆっくりと口を開いたのだ。

――あの時、義藤を犠牲にしてここに来たから、敵の正体が分かったでしょ。敵の正体が分かり、紅は官吏を追い詰めることが出来る……。なんて言うのは、後からつけた口実ね。さっきも言ったでしょ。私は義藤よりもあなたを選んだ。あの時、赤に染まっては、あなたは赤から本来の色に戻れなくなる。だから、私は義藤を見捨てたの。私のことを蔑むのなら、お好きになさい。私は、何も後悔をしていないのだから。

声はそう言い、存在感を消した。


 夢は恐ろしいほどの現実味を持っている。

 これが悠真の妄想だとしたら、それは恐れ多いことだろう。まるで、自分が紅に匹敵する存在。悠真は妄想の中でそのように思っているのだ。 

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