火の国の夏に降る雪は白く積もる(13)
空気が一変した。
張りつめた空気は、すがすがしく澄んでいる。それは、雪の国の空気と似ていた。湿度と気温が高く、雨が多い火の国ではないようだった。
けらけらと、赤の色神の笑い声が響く。
「まあ、紅」
女性の声。それは野江の声だ。
「また、義藤で遊んでいるのか?」
それは年老いた男の声。遠爺と呼ばれていた者の声だ。紅城には、多くの人がいる。その中で、紅の周囲には、美しい赤色を持った人々が集まっていた。多くの人がいるのに、紅の近くにいる人はわずかだ。それは、雪の国でソルトのすぐ近くにはアグノしかいなかったのと同じ。もしかすると、紅もソルトと同じなのかもしれない。紅も警戒をしている。これほどまでに優れたと思える赤の色神でさえも、信じれる人は限られている。それを思うと、ソルトは自らが至らない点も、何もかも、仕方がないことのように思えるのだ。
――完璧な色神
そのような人は存在しないと、赤の色神に教えられたような気がしたのだ。
柴に連れられて、萩ら元影の国の術士も集まった。白の石の力は確かだ。一度心臓を止めても、白の石の力があれば、たちまち回復してしまうのだから。彼らは申し訳なさそうに、目を伏せていた。無色を持つ悠真も現れたが、その中でソルトは一人足りないことに気付いた。
――秋幸
その存在。ソルトは秋幸が何者なのか分かりかねていた。それでも、赤の色神が秋幸の存在を受け入れている。外部からソルトがとやかく言うことではないのだ。間違いなく、秋幸は赤の色神の不調と関係がある。黒の色神も気付いているはずなのに、何も言わない。だから、ソルトも何も言えないのだ。
「秋幸が来ないな。ちょっと呼んでくるか……」
そう言うと、赤の色神が動き始めた。