火の国の夏に降る雪は白く積もる(7)
紅の鮮烈な赤色が温かみを持って広がる。まぎれもなく、ここは赤の国だ。暖かな赤が温もりを持ち、とても心地よい気持ちがした。
「火の国は、とても素晴らしい国ですね」
ソルトは思わず口にした。異国を賛美するなど、白の色神として誤った言動かもしれない。それでも、赤の色神の漆黒な長い髪と、赤い着物のコントラストが美しくて、わずかに異なる赤色が幾重にも重ねられ、赤色が異なる様相を見せている。白は白しかない。しかし、赤は赤だけでない。わずかに異なる赤色。そのすべてが赤なのだ。それは、赤の懐の深さを示しているような気がした。
「私はここで生まれ育った。鎖国をしている火の国に、異国と自国を比べるすべはなく、私には火の国が異国より素晴らしいかなんて分からない。色神となり、平和だと思っていた火の国にも、戦いの火種が常にくすぶっていることを知った。命を狙われることもあるし、大切な仲間が殺されることもある。それでも、私は火の国で生きることを誇りに思っている。火の国以外で生きることは考えられない」
赤の色神見ていると、ソルトはみじめな気持がした。あまりに自分と異なるのだ。同じ色神であるのに、赤の色神は光り輝いているように思えるのだ。ソルトは赤の色神のようにはなれない。それは嫉妬に近い感情だ。大きな引力に引っ張られているような気がした。色神であるソルトが、赤の色神に魅了されているのだ。
「私は赤の色神が羨ましい。それほどまでに、自国を愛せるなんて。――正直なところ、私は白が嫌いでした。雪の国も嫌いでした」
ソルトの発言は許されない発言だろう。失言も甚だしい。色神は高貴な存在。国を支える存在だ。色にもっとも愛された存在だ。その色神が、国と色を否定したのだ。紅が小さく笑った。
「それでも、白の色神は変わった」
端的に口を開いた紅は、少し間をおいて続けた。
「かつての白の色神は、そうだったかもしれない。でも今は違う。今の白の色神は、自らの命を望んでいる。それは決して利己的な理由ではないだろう。自らの命が、存在が、雪の国と白のために必要だと知っているから。意固地になってでも、己の命を求めるんだ。――色神は、色神となった途端、その存在は私から公になる。命の価値が、国と比べられる。今の白の色神は、国のために、色のために必要だ。だから、白の色神は命を求める。しかし、時に色神よりも術士が求められることもある。色神を支える術士も、国のために必要な存在なのだから。色神よりも術士が求められるときは、迷うことなく私たちは命を差し出す。もしかしたら、白の色神にもそのような時がくるかもしれない」
ソルトは紅の言葉を聞きながら、紅を見つめた。今の紅は、どちらなのだろうか。自らの命と術士の命、どちらを選ぶのだろうか。ソルトは、なんとなく紅がどちらを選ぶのかわかったような気がした。
確かなことは、この優れた赤の色神は、火の国にとって大きな存在であるということだ。