表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
752/785

火の国の夏に降る雪は白く積もる(7)

 紅の鮮烈な赤色が温かみを持って広がる。まぎれもなく、ここは赤の国だ。暖かな赤が温もりを持ち、とても心地よい気持ちがした。


「火の国は、とても素晴らしい国ですね」


ソルトは思わず口にした。異国を賛美するなど、白の色神として誤った言動かもしれない。それでも、赤の色神の漆黒な長い髪と、赤い着物のコントラストが美しくて、わずかに異なる赤色が幾重にも重ねられ、赤色が異なる様相を見せている。白は白しかない。しかし、赤は赤だけでない。わずかに異なる赤色。そのすべてが赤なのだ。それは、赤の懐の深さを示しているような気がした。


「私はここで生まれ育った。鎖国をしている火の国に、異国と自国を比べるすべはなく、私には火の国が異国より素晴らしいかなんて分からない。色神となり、平和だと思っていた火の国にも、戦いの火種が常にくすぶっていることを知った。命を狙われることもあるし、大切な仲間が殺されることもある。それでも、私は火の国で生きることを誇りに思っている。火の国以外で生きることは考えられない」


赤の色神見ていると、ソルトはみじめな気持がした。あまりに自分と異なるのだ。同じ色神であるのに、赤の色神は光り輝いているように思えるのだ。ソルトは赤の色神のようにはなれない。それは嫉妬に近い感情だ。大きな引力に引っ張られているような気がした。色神であるソルトが、赤の色神に魅了されているのだ。


「私は赤の色神が羨ましい。それほどまでに、自国を愛せるなんて。――正直なところ、私は白が嫌いでした。雪の国も嫌いでした」


ソルトの発言は許されない発言だろう。失言も甚だしい。色神は高貴な存在。国を支える存在だ。色にもっとも愛された存在だ。その色神が、国と色を否定したのだ。紅が小さく笑った。


「それでも、白の色神は変わった」


端的に口を開いた紅は、少し間をおいて続けた。


「かつての白の色神は、そうだったかもしれない。でも今は違う。今の白の色神は、自らの命を望んでいる。それは決して利己的な理由ではないだろう。自らの命が、存在が、雪の国と白のために必要だと知っているから。意固地になってでも、己の命を求めるんだ。――色神は、色神となった途端、その存在は私から公になる。命の価値が、国と比べられる。今の白の色神は、国のために、色のために必要だ。だから、白の色神は命を求める。しかし、時に色神よりも術士が求められることもある。色神を支える術士も、国のために必要な存在なのだから。色神よりも術士が求められるときは、迷うことなく私たちは命を差し出す。もしかしたら、白の色神にもそのような時がくるかもしれない」


ソルトは紅の言葉を聞きながら、紅を見つめた。今の紅は、どちらなのだろうか。自らの命と術士の命、どちらを選ぶのだろうか。ソルトは、なんとなく紅がどちらを選ぶのかわかったような気がした。

 確かなことは、この優れた赤の色神は、火の国にとって大きな存在であるということだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ