火の国の夏に降る雪は白く積もる(6)
雪の国では、冬になると雪嵐が吹き荒れる。この、火の国の蒸し暑さとは無縁だ。知らず知らずのうちに、ソルトの首筋に汗が浮かんだ。
「冬彦。話がある」
赤の色神が冬彦に言った。
「紅、一体……」
冬彦は戸惑ったかのように、座りなおした。
「冬彦、お前は何を考えている?」
紅の言葉は何とも強い。何を考えているのか。何を思っているのか。
「紅、それはどういう?」
どういう意味なのか。冬彦はソルトの近くにいた。それが赤の色神の怒りに触れたのかもしれない。ソルトは、冬彦の赤の術士という立場を危うくしたのかもしれない。
「冬彦、お前は火の国には珍しい一色を持っている。かつて、色たちは互いの覇権を争った。そして、一つの解決策を見つけたそうだ。人を一色で分けたんだ。そして国を分けた。互いの国ということだ。一色はどのように決まるのか、それは分からない。親から受け継ぐものなのか、成長過程で手にするものなのか、私には分からない。それでもな、火の国に赤の一色を持つ者が多いのは事実だ。実際には、赤に類さない色を持っている者は、稀だとも言える。冬彦。お前の一色は特殊だ。それは、白の一色。雪の国に属する色。私に止める力はないさ」
赤の色神はすべてを知っている。すべてを知ったうえで、冬彦に言っている。まるで、怖気づく冬彦の背中を押すように。赤の色神は口にするのだ。
「冬彦、お前は赤の術士だ。火の国で生まれた、私の術士。でもな、私に道を決める権利なんてないのさ。冬彦、私は赤の色神だが、火の国の支配者ではない。冬彦は赤の術士であるが、私の所有物ではない」
紅は結末まで話さない。まるでそれは、冬彦に紅の考えを押し付けないための配慮のようで、まるでそれは冬彦が後悔しない決断を下すための手伝いのようであった。
ソルトは冬彦を見つめた。冬彦は、白の一色を持つ。義藤が赤に愛されているように、野江が赤に愛されているように、冬彦は白に愛されている。
白の一色。
その色は、雪の国に似合う色だ。