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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の幻覚(1)

 ただ待つことしか出来ない悠真は、一人地下牢の隅に蹲った。秋幸は立ち去った冬彦がいるように誤魔化すために上へと戻り、その他、春市や千夏の動きを探っていた。悠真は何も出来ない。

「義藤、これでいいんだよな」

眠る義藤に声をかけても返答は得られない。義藤に一刻も早く適切な治療が必要なことは明らかだ。燃えるように熱い義藤の身体を冷やすため、悠真は桶の水に布を浸した。先ほどまで聞こえるほど荒かった義藤の呼吸音は、とても静かになっていた。今にも消えそうな義藤の呼吸音が、悠真に一抹の不安を覚えさせた。

「義藤、紅が助けてくれるから。それまで、頑張ってくれ」

悠真は義藤に言った。悠真を庇い、傷を負った友に言った。悠真は大きな罪を背負って生きていけるほど強くなかった。春市、千夏、秋幸、冬彦の四人が罪を負うことも嫌だった。

「義藤……」

悠真は祈った。祈ると同時に、自分に何が出来るのか考えた。自分に出来ることがないか、自分しか出来ることがないか、必死に考えた。それしか出来ないのだ。悠真は頭を使うのが苦手なのに、今大きなことを考えている。頭が割れそうなほど疲れていた。その疲れが引き金となり、ゆっくりと眠気が悠真を誘った。

 それは、唐突な眠気。

 辺りが煙で覆われたように見えた。


 悠真の視界は白い煙で満たされ、悠真の瞼はゆっくりと重くなっていった。現実と幻覚の間で、悠真は義藤の姿を見た。そして、安堵した。


 義藤がそこに立っていたのだ。


 血で汚れた服を着ていない。そこには元気な義藤が立っていた。

「義藤……」

悠真は義藤を呼び、立つ義藤に手を伸ばした。すると義藤は静かに膝を折り、悠真の頭に義藤の手が乗せられた。横たわる悠真に、義藤は微笑んだ。

「よく頑張ったな」

義藤の手は温かく、悠真は安堵した。

「良かった、義藤。無事だったんだね」

夢と現実の狭間にまどろみながら、悠真は義藤に言った。すると義藤はいつもと変わらない笑みを悠真に向けたのだ。

「案ずるな。まもなく紅が助けに来る」

義藤はいつもと変わらない。幻覚の中であっても同じだ。

「ごめんね、義藤」

悠真はそれ以上言えなかった。悠真よりも、義藤の方が辛そうな表情をしているからだ。

「大丈夫だ。小猿が気にするようなことじゃない」

辛そうな表情をした義藤は、一つ息を吐いた。悠真の身体の自由はどんどん奪われていく。重たい身体。激しい眠気。これが夢なのか、現実なのか分からなかった。

「ねえ義藤。秋幸たち、助かるよな」

悠真は義藤に尋ねた。義藤と四人の隠れ術士は幼馴染だ。義藤なら、彼らを助けるために何をするだろうか。

「紅への裏切りかもしれないけど、俺は秋幸たちに生きて欲しいんだ」

義藤に問うのは、自分の行動を正当化するためだ。義藤が可と言えば、許されるように思えたのだ。義藤は困ったように微笑んだ。

「大丈夫、大丈夫だ。春市、千夏、秋幸、冬彦がどのような人なのか、俺は良く知っている。――まさか、官吏に利用されていたなんて、想像もしていなかった。一歩間違えば、俺も彼らと同じ道を歩んでいた。大丈夫、紅は助けてくれる」

義藤の言葉は温かい。声は優しい。悠真は嬉しかった。身体が重く、悠真は地下牢の床に横たわった。床の冷たさも感じない、穏やかなまどろみの中に悠真はいた。

「義藤、俺は」

横たわる悠真は義藤を見上げた。そこには、抜き身の刃のようで、作り物のような義藤がいた。優しい義藤がいた。

「俺は、義藤のことが苦手だったんだ。だって、義藤強いだろ。それが怖かった。でも、間違っていたんだ。義藤はこんなに温かく、こんなに優しいんだ。だから義藤。無事で良かった。本当に良かった」

悠真は義藤の無事に喜んだ。嬉しくて、これまでの不安が消えたように思えた。

「簡単に死んだりしないさ。紅が簡単に死なせたりしない。大丈夫。そばにいる」

義藤は笑った。すこし、寂しげな義藤の笑いだった。


 全ては幻想の中のこと。悠真は義藤のことが気になりすぎて、そのような夢を見たのかもしれない。

「少し休め」

義藤の声が悠真の中で響いた。そして悠真は眠りに落ちていく。ゆっくりと、ゆっくりと眠りの中へ落ちていくのだ。

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