火の国の夏に降る雪は白く積もる(4)
アグノの呼吸の音が響いていた。アグノの状況をソルトは理解することができない。しかし、アグノも実験体であったことは事実なのだ。実験体であったために、体に後遺症を負ったのはソルトだけでない。それは、アグノも同じなのだ。
白の石で命をつないだことのある者は、多かれ少なから代償を支払う。アグノは心臓の機能を支払っていたのだ。
「アグノはいつも私を守ってくれていたわ」
ソルトはアグノを見つめた。実際のところ、アグノがいなければ、何もできないのが今の白の色神なのだ。
「白の色神。無粋なことかもしれないが、どうやって雪の国へかえるつもりなんだ?」
黒の色神は、とても穏やかな声色で言葉を口にした。その言葉は温かく、その声は響いていく。
「何とかして帰るわ。私は白の色神なの。白の色神となった以上、ただの人へは戻れない。この命が終わるその時まで、白の色神として生きるの。だってそうでしょ。白から見放されては、私は生きていけないのだから」
ソルトは口にしたが、その方法が分からずにいた。白はソルトに甘い。ソルトの命をすぐに奪ったりはしないだろう。しかし、いつまでもそうとはいかない。ソルトはソルトであり、生きなくてはならないのだ。
具体的な方法がないのに、雪の国へ帰ると言い張るソルトは、何とも幼く、無知な存在に見えることだろう。一人で雪の国へ帰ることなどできない。
「雪の国まで送ることならば、出来る」
ふと、黒の色神は言った。
「宵の国で、変じは起こっていない。ならば、俺がもう少し回り道をしても問題ないだろう。白の色神が望むのならば、俺が雪の国まで送り届けることができる」
黒の色神は冗談を言っているわけでもにだろう。その言葉に甘えることが許されるのか、ソルトには分からない。今、黒の色神に助けを乞うことは、白の色神として許される行為なのか。