火の国の夏に降る雪は白く積もる(3)
黒の色神が何を思っているのかソルトは分からない。それでも、ソルトは白の色神だから、雪の国の代表として返答してなくてはならない。黒の色神は柔らかな声色で言った。
「雪の国は極寒の土地だと聞く。宵の国にも北の方の地方がある。そこでは、雪が積もる冬を乗り越えなくてはならない。それでも、雪の国の冬に比べれば、さほどのことはないだろう。なにより、同じ大国でも南北に広がる宵の国では、凍える冬だけでない。雪の国はの冬はさぞかし辛いことだろう」
それは同情するようなことでもなく、ただ、共感する言葉だった。その共感が温かい。
人と人は必ずしも理解しあうことは難しい。
ソルトは、そのように思っていた。
生まれた家が違う。育った環境が違う。感じることが違う。それらすべてが人と人を遠ざける。それは、色神も然り。同じ色神であっても、色が違えば、国が違えば、色神となる経緯が違えば、人であったころの思いが違えば、同じではないのだ。
黒の色神はソルトのことを理解したわけではない。もちろん、ソルトも黒の色神のことを理解などしていない。黒の色神と白の色神。正反対の色は、歩み寄ることなどできない。
黒の色神が雪の国に抱いた感想。それが事実。遠ざけるでもなく、否定するでもなく、叱咤激励するでもなく、色は違えど、同じ色神として黒の色神は共感してくれた。国を背負う重圧。色を背負う重圧。それらの重圧を黒の色神は共感してくれた。同じ重荷を背負う中として、共感してくれた。
色神は人でない。
しかし、色神は孤独ではない。
色から一色を認められ、色を表現する力を得た。
色神は孤独などではない。
ソルトは黒の色神を見つめた。ソルトの目では、黒の色神の姿はぼやけて見える。それでも、ソルトの目には彼の一色がはっきりと見える。その黒は白と相成れないが、理解しあうことはできるのだ。