火の国の夏に降る雪は白く積もる(2)
ソルトは目を閉じて、雪の国を思い出した。凍える雪に閉ざされた国。過酷な国土であっても、ソルトたちは確かに雪の国で生きていた。凍えた大地でも、夏や来る。短い夏に穀物を育てることができる。鉱物をとり、輸出することができる。氷の大地で覆われた、氷の国を思えば、雪の国は温かい方だ。雪の国は過酷な環境に置かれているが、苦しい国ではない。雪の国の風土が守ることもある。
「ソルト、一人じゃ無理だ」
冬彦がソルトに言った。冬彦の言うことは最もだ。分かっている。しかし、変えることがソルトの信念なのだ。
「でもね、冬彦。私は白の色神なの。白の色神である以上、雪の国に帰らなくてはならないのよ。それが、私の存在価値なのよ」
ソルトは揺るがない意志を、さらに盤石なものにするために口にした。
「入っても良いか?」
男の声がした。黒い色が障子の外から覗き込む。その一色によって、相手が誰なのか分かる。
「ええ、どうぞ、黒の色神」
ソルトが答えると、障子が開かれ、漂う黒色が一層濃厚になった。全身を黒い着物でそろえた黒の色神は、黒の象徴のようであった。黒は大きな力を持つ。それは、白と同様だ。火の国に足を運ばなければ、ソルトが黒の色神と出会うことはなかっただろう。黒は異形を生み出し、死を与える。白は命を救う。まるで、反対の色だ。どちらも、強い色であるのに、存在意義は正反対なのだ。
「白の色神」
黒の色神はソルトを呼ぶと、ソルトの近くに腰を下ろした。
「雪の国はどんな国だ?」
まるで、世間話をするように、黒の色神は言った。白と黒という正反対の色。その距離を埋めようとするかのように、黒の色神は口を開いたのだ。
「それは、黒の色神もご存じじゃないのかしら?」
ソルトは雪の国を思い出しながら言った。黒の色神は少し困惑したように、苦笑した。