緋色の兄妹(8)
術士は一色によって定められる。努力したからと言って、望んだからといって、術士になることはできない。術士になるのは才覚が必要であり、術士として強くなるには、才覚と努力が必要なのだ。野江でさえ、努力を続けた。野江でさえ、戦い続けた。
「教えることができる者はいる。秋幸が、紅の石の本当の力を引出し、赤という色の本当の意味を知ったとき、どうなるんだろうな」
野江は教えることが出来る者がいるとは思えなかった。教えることが出来る者がいたとしたら、その者は優れた術士に違いない。だが、野江はそのような術士を思い浮かべることができない。
「一体、誰が……」
野江が尋ねると、紅は悪戯めいて微笑んだ。
「それで、野江。白の色神をどうするかな……」
紅が話をはぐらかしているのは明らかだ。
「それは、紅の中で答えの出ている問題でしょ」
紅はけらけらと声を出して笑った。
「確かにな。さて、野江。これから忙しくなるぞ。すぐに官府と話をつけて、官吏を受け入れる。それに……すぐに都南を呼び戻す。術の使えない朱将都南に、秋幸と悠真を託す」
野江は都南の名を聞いて息をのんだ。
「都南って……」
それは野江のよく知る者だ。かつて、一緒に術の鍛錬を積んだ仲間。野江は都南のことをあまり知らない。当然だ。都南の過去を知らないのだから。都南がそのようなことができるとは思っていなかったのだ。野江が鳳上院家の生まれである過去を隠していたように、柴が影の国の術士であったことを隠していたように、誰もが過去を隠している。都南も何かを隠している。そして、姿を消した佐久も……。野江が出会ったとき、都南と佐久は一緒だった。もしかしたら、二人は互いのことを知っているのかもしれないが、野江の知る由はない。
都南は優れた術士だった。野江は都南が紅の石を使う姿をはっきりと覚えている。鋭くとがった赤色。都南はまるで餓えた獣のように赤色を引き出すのだ。その才は確かで、野江は幾度となく追いつかれそうになった。都南の術は確かに変わっていた。感性を要する色の石の使い方の中で、都南はまるで難解な図形を組み立てるように術を使う一面があった。常にではない。感性で使う中、時折見せていた。そんな一面。
しかし、それは過去の話。今、都南は術士でない。術の力を使うことができない。術士でない都南に、術の使い方を教えることができるのだろうか。
「さて、私はアグノのところへ行ってくる。野江、また呼び出す。備えていてくれ」
紅は勢いよく立ち上がった。豪快なその振る舞い。見ていて、気持ちがよかった。
これが紅なのだ。
赤の色神紅。
野江を導く赤色だ。
野江は深く紅に頭を下げた。