緋色の兄妹(6)
紅の考えは、紅よりも遥かに先へ向かっている。火の国を変えるのは、紅だ。
「野江、考えがあるんだ。私は、官府と歩み寄りを本格的に開始する。もっと、後にするつもりだったが、今は悠長に構える時間が惜しい。一刻も早くけりをつけなくてはならない。――だから、野江。私は、紅城に官吏を数名受け入れる。そして、官府へ術士を送り込む。それが、吉とでるか凶とでるかわからない。それでも、私は先へ進む。時期尚早だと、反対する者もいるだろう。だが、私はすぐにでも動く。野江、助けてくれるか?」
紅が何を言いたいのか、野江にはわからない。
「助けるって、あたくしに何ができるのかしら」
紅は野江の肩をたたいた。
「隣にいてくれ。私は野江を利用する。――野江、野江は鳳上院家の末娘。大切な存在だ。私は欲張りだからな。官府だけじゃない。鳳上院家の力さえも手にしたい。野江が陽緋としてここにいる。鳳上院家がそれをしれば、迂闊に手を出さないだろう。それだけでいいんだ」
野江は紅の考えを知った。野江がここにいることが公になれば、鳳上院家は色神に逆らわないだろう。陽緋という特別な地位を、鳳上院家の直系一族から出したとすれば、それは利用価値のあるものだから。鳳上院家に対する嫌悪感は消えない。それでも、それは以前ほどではない。兄の思い出が野江を救い、兄と似た雰囲気の紅が野江を支えるから。
「分かったわ紅。一度、里帰りでもさせてもらうわ」
野江は兄を思いながら、紅を見つめた。強いのに儚い、紅を守るためならば、野江はいくらでも強くなれるのだ。兄が野江を守ったように、野江はいかなる敵からも紅を守るのだ。
紅が次の紅を思うのならば、それでもいい。野江は守る。紅が死を望んでも、次を望んでも、守る。兄が野江を守ったように、「諦めるな」「戦え」と紅を叱咤し、一緒に生きるのだ。