緋色の兄妹(3)
野江は紅を見た。紅を見ていると兄を思い出す。兄は芯が通った人だった。信念を曲げない。信念を曲げないのは、紅と似ている。
「紅は、あたくしの兄様に似ているわ」
ふと、野江は口にした。兄の存在を、野江は話すつもりなどなかったが、大きな困難に立ち向かおうとしている紅の姿が、鳳上院家と戦った兄のようで野江はいてもたってもいられなかったのだ。
「野江の兄さん?」
紅が興味を持ったかのように、身を乗り出した。
「ええ。あたくしの兄様よ。鳳上院家に生まれた、このあたくしを助け出してくれたのよ」
野江の脳裏に兄の姿が思い浮かぶ。この数日、兄のことを思ってばかりだった。不思議だ。紅と兄が重なる。それは、紅の強さが兄の強さと重なって見えるからかもしれない。
「野江の兄は、素晴らしい人だったんだな」
紅から言われると、とても嬉しい気持ちになる。兄の存在は紅に認められている。
「紅、あたくしの兄の名は、浅間五郎と言うわ」
野江は、唐突に話してしまった。兄のことを紅に知ってもらう。それだけで、兄という存在が認められているような気がするのだ。
紅はわずかに目を見開き、そしてしばらくして微笑んだ。
「浅間五郎……」
野江は紅の口から兄の名を聞き、とてもうれしかった。だから野江は兄のことを話した。
「あたくしは、鳳上院野江。あたくしには、五人の兄がいるわ。あたくしの父と、父の先の本妻の間に生まれた四人の息子。そして、父と妾の間に生まれた五郎兄様。あたくしは、父の先の本妻の死後、父に嫁いだ母との間に生まれた末娘よ。あたくしと兄たちとの間には、大きな年齢の差があったわ。五郎兄様は、上の兄たちにとても冷たくあしらわれていたわ。当然よね、五郎兄様は妾の子なのですから。五郎兄様が女であれば、そこまで疎まれることはなかったでしょうけど、五郎兄様は男だったの。鳳上院家を継ぐことができる男だったから、疎まれたの。五郎兄様は、とても優しくて、とても優れた人だったわ。あたくは女だったから、上の兄様に疎まれることもなかったわ。鳳上院家の継承権もなく、あたくしは、鳳上院家の一人娘として、名家に高額で売られる商品。本妻の死後の後妻の娘だから、先の妻の嫌がらせもなかったわ。それでも、あたくしは商品。あたくしに注がれた愛は、作り物の愛なのよ。そんなあたくしを、五郎兄様だけは優しくしてくれたわ。五郎兄様は、二十歳になると浅間という名を与えられて、家から追い出された。それでも、兄様はあたくしを助け出してくれたのよ」
野江は紅を見つめた。