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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の手紙(2)

 紅へ手紙を書いてこの現状を伝える。それは突拍子もない作戦だ。紅が信じる保障は無い。それでも悠真は紅を信じることにしたのだ。野江と都南の力を信じることにしたのだ。

 この手紙を届ける冬彦にも大きな危険が伴う。問答無用で斬られる可能性もある。相手は、村を一つ滅ぼし、義藤を追い詰めて勝った存在。とても危険な存在だ。そして、紅であれば冬彦が持つ才能に気づくはずだ。白に愛された、恐ろしいほどの才能に……。


 悠真は秋幸が用意してくれた紙と筆で紅に手紙を書いた。


 紅へ


 義藤と俺はここにいる。俺に詳しい地理は分からないから、どこかは、手紙を持っていた冬彦に聞いて欲しい。俺は無事だし、義藤も彼らが助けてくれた。一応助けてくれた、という表現が正しいのかもしれない。義藤は愚かな俺を庇って深い傷を負い、手当てをしてもらったが白の石が必要な状況だ。そう彼らが言っていた。


 彼らというのは、義藤と戦った四人の隠れ術士で、春市、千夏、秋幸、そして冬彦。


 四人が義藤と戦って、俺たちをここに連れてきた。けれども、義藤を助けてくれている。彼らは義藤の幼馴染だから。紅と戦うのも、義藤と戦うのも、彼らの本意じゃない。四人とも優れた才能を持って、四人ともとても優しい人だ。紅に刃を向けることの危険性も、この先に生じるだろう自らの死も全て覚悟している。隠れ術士として、利用されるしか選択肢が無かったんだ。


 隠れ術士の四人は人質を捕られている。大切な、一緒に生活している子供たちを人質に捕られて、彼らは戦っている。それが間違いだと知っていても、紅たちが自分たちを殺すと知っていても、彼らは人質を助けるために戦っている。

 紅、聞いて欲しい。人質さえなければ、彼らは自由だ。その後、紅に罰を受ける覚悟もしている。紅が死を申し渡すなら、甘んじて受け入れる覚悟をしている。それだけ必死なんだ。人質を助けるために。


 今らなら分かるんだ。俺が復讐を果たすと息巻いて、野江と一緒に紅城へ足を運んだときから、俺は紅たちに守られていた。俺はどうしようもない田舎者で、皆が考えているようなことが分からなかった。そんな俺が言うのは間違っているかもしれない。彼らは紅に刃を向けて、そして義藤を傷つけた。俺の村を壊滅に追い込んだ。それでも、助けて欲しい。


 俺はずっと分からなかったんだ。一体、何が正解で、何が間違いなのか。無知で無力な俺は何も出来ず、この状況に巻き込まれた傍観者でしかない。紅がくれた惣次の石を使えれば、こんなことにならなかったかもしれない。そもそも、紅城へ足を運ばなければ、あの夜、囮となる義藤と一緒に行かなければこのような事にならなかったかもしれない。俺は過ちを犯し、紅たちに大きな迷惑をかけた。

 今度は迷惑をかけたくないんだ。

 彼らを殺さないで欲しい。


 彼らは隠れ術士として戦ったんだ。隠れ術士として、選択肢が無かったんだ。彼らは優れた術士で、きっと紅の力になってくれる。俺は、信じているんだ。


 助けて欲しい。彼らは悪い人じゃないんだ。紅や野江、都南、佐久が少しでも労を割いてくれるのなら、彼らは自分で踏みとどまることが出来る。今、彼らを罰しても何にもならない。彼らの上に立つ存在を捕らえなければ何にもならない。だから、助けて欲しい。


 俺は分かったんだ。

 俺は無力で無知だ。


 厳しい鍛錬を積んだ義藤でさえ、その勝利は万全ではない。都南と義藤の鍛錬を見たけれど、実際の戦いは甘いものじゃない。紅の石だけじゃなくて、色の石は強大な力を持っているんだ。俺はようやくそれが分かったんだ。

 石の力は、術を使う人間に左右されるんだと、俺はようやく分かったんだ。

 四人の隠れ術士は、優れた力を持った術士だ。それは、紅たちを支えてくれる力になるはずなんだ。助けて欲しい、と願うことは間違っているかもしれない。けれども、俺は助けて欲しいと紅に泣きつきたいんだ。四人の隠れ術士の真意を知ったから、俺は彼らに復讐しようと思わないんだ。助けて欲しい。紅、助けて欲しいんだ。


                               愚かな小猿  悠真



 紅の元へこの手紙が届くことを悠真は願っていた。手紙が届けば、紅は必ず動いてくれる。そう信じていた。悠真が知る紅は、様々な顔を持つ存在だ。けれども、その正体は、色神になってしまった普通の女性。歴代最強の陽緋である野江も、普通の女性だ。朱将の都南も、佐久も普通の人だ。決して神ではない。邪でもない。動いてくれる。助けてくれる。悠真は信じて、紙を折った。

「頼む」

悠真は冬彦に手紙を渡した。問答無用で近づいてくる冬彦を斬り捨てる可能性もある。それでも悠真は信じていた。紅を、紅の仲間たちを。よろめきながらも、立ち上がる冬彦を秋幸が支えたが、冬彦はそれを振り払い足を進めた。

「秋幸、お前も死ぬなよ」

冬彦が年上であるはずの秋幸に上から目線で口にした。

「当然だよ」

秋幸は苦笑し、悠真は立ち去る冬彦を見送った。

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