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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の兄妹(2)

 何かを隠している紅は、小さく微笑んだ。その微笑みは作った微笑みだ。紅は演ずることに長けている。それは、紅が色神として立ち続ける証拠。

 野江だって考えたことがある。自らが色神であったならば、火の国はどうなっただろうか。そんなくだらない妄想。野江に火の国は守れない。野江は色神の重圧に耐えることができない。

 野江より幼い、目の前の赤の色神はどうやって立っているというのだろうか。一人で秘密を抱えて、一人で向かい合っている。


「何も隠してなんかいないさ」


紅の声は低い。何かを隠しているのは事実だ。何もないのに、紅が倒れるはずがない。

「紅、色の力を収束させる時、いったい何があったの?」

野江は核心に踏み込んだ。野江が守る、愛しい存在が一人で現実と向き合い、何かを隠している。支えることができるのは、野江でない。野江はそれほど、自意識過剰ではない。

「何もないさ。色の力を収束させるのに疲れただけさ」

紅は少し顔色の悪い表情で微笑んだ。


「あたくしにも、言えないことなのかしら」


野江は紅ににじり寄った。それでも紅は何も話そうとしない。


「じゃあ、義藤にお話しなさいな。紅、よろしくて。決して、一人で抱え込まないでちょうだいな。あなたは、あたくしたちの大切な仲間なのですから」


目の前にいるのに遠い。それが色神と人の距離だ。その距離を埋めることなどできるはずもない。それでも、紅はここにいる。ここに来てくれた。それだけで、野江は紅に認められているような気持になるのだ。紅を守ることができるのは、野江でなく義藤だ。


「野江は優しい。十年前から、何も変わらない」


紅は照れたように俯いた。外では、虫の声が響いている。まだ、すべてが解決したわけではない。佐久は姿を消したまま。紅はシュドリードをどうするつもりなのか。そして、影の国の術士をどうするつもりなのか。

 異国は雪の国と影の国だけでない。二つの国の他に、もう一つの国が火の国に来ている。まだ、野江たちは立ち止まることはできない。それでも、少しの間の休憩が必要なのだ。その休憩が次の活力になるのだから。


「あたくしは、決して優しくなどなくてよ」


野江は紅に答えた。


「あたくしは、とても厳しいのよ。それは、紅もよく知っているでしょう?」


紅はけらけらと笑った。


「確かに。それでも、野江の厳しさの後ろには、優しさが常に隠されている。それを私は知っている。私だけでない。野江を慕う赤の仲間たちは、皆知っているんだ。都南も、佐久も、義藤も。だから、野江は私たちの信頼すべき野江なんだ」


紅が微笑むと、赤い色が紅から零れ落ちたような気がした。

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