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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の兄妹(1)

 野江は自室に下がっていた。眩暈がして、気分が悪い。それが理由だった。これまでの野江ならば、無理をしてでも前線に立ち続けるだろう。しかし、今の野江には、その気力がない。

 なぜだろうか。野江は虚脱感に襲われていた。自らの立っていた地盤への不安。無力さの痛感。陽緋という責任が、いつも以上に重圧に感じる。野江は陽緋として、立つことができているのだろうか。火の国で最も力のある術士「陽緋」として、野江は火の国や紅を守ることができているのだろうか。


 外は蒸し暑い。羽織る羽織は、石のように重い。この重みは、野江がここで赤の術士として生きているという証。


 野江の思考は行ったり来たりを繰り返していた。結局のところ、答えなどないのだ。野江は答えを見つけることが出来ず、野江はじっと座っている。最早、何に悩んでいるのかさえ分からない。悩んでいることが悩み。そのような状態だ。


――鳳上院家

――庵原太作

――影の国

――兄「浅間五郎」


全てがつながっている。それでも、つながっていることを知りたくない心が、野江を真実から目を背けさせようとしている。分かっているのに、野江は分かりたくないのだ。


「野江」

赤い声が響き、障子が開かれた。そこにいたのは紅だった。

「紅、どうして……」

そして彼女が野江の部屋に来ることで示される答えを野江は悟った。


「彼らは助かったのね」


野江は一つ息を吐いた。


 影の国という国。その国の存在意義の是非をするつもりは野江にはない。その国が暗殺を生業として国を動かしていることの是非をするつもりもない。影の国は、ある意味必要とされているのだ。もちろん、火の国でも影の国の力を必要とする者がいる。その存在を野江は知っている。


「ああ。これから、彼らの処遇を考える」


紅らしい答えだ。紅は彼らを受け入れる。「一色」が見えているから。一色を見ている紅は、人柄までも見ているのだ。偽ることのできない、真実の色。それが一色なのだ。


「紅なら、きっと、寛大な処遇を与えるのでしょうね」


野江は紅を心底信頼していた。彼女ならば、火の国を良い方向に動かしてくれると信じているのだ。しかし、同時に、倒れた紅の姿が脳裏に焼き付いている。そして、昨夜、まるで不安を隠そうとしているかのような紅の姿も野江は忘れることができない。


 紅は何かを感じている。それを野江たちに伝えていないのだ。伝えることができないのか、伝えることが無意味だと思っているのか、人である野江には赤の色神である紅の気持ちを知ることはできいない。しかし、推し量ることはできる。

「紅。一体、何を隠しているの?」

野江は紅に尋ねた。それがとても失礼なことは知っている。紅は赤の色神。色神として、立ち続けている。火の国を背負っている。その紅に対して、詮索するようなことは、失礼なこと。でも、野江は尋ねずにいられなかったのだ。

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