柴と萩が信じる赤(2)
雪の国の医療は火の国とは違う。雪の国の医療は、死さえ超越する医療なのだ。
「恐ろしい、と感じたことは正直な感想です。ですが、あの医療があれば、救われる命がたくさんあることは事実だと思われます」
柴はげらげらと笑った。
「雪の国の財源だ。雪の国では、自国の民を実験台にしてでも、医療を進歩させてきた。その技術を提供することで、収入を得ている。ならば、容易くその技術を異国へ出したりしないだろうな」
柴は大きく伸びをした。
「野江はどうだ?あの野江だぞ。一色が合わないからと言って、すぐに倒れるようなことはないだろ」
千夏が衝立の向こうで答える。
「不調だと。そんな雰囲気は伝わってきました」
「そうか」
柴は端的に答えた。そして、柴は続けた。
「千夏。お前は幼いころ、赤の術士に救われたと聞いた」
悠真も千夏のことは秋幸に聞いていた。春市と千夏は赤の女術士によって助けだされたと。
「はい」
千夏は答えた。
「そこは、どんな場所だった?」
柴は食い入るように尋ねた。
「私と春市は、気づいたときには同じところで訓練を受けていました。山の中。物心つく前から、訓練は始まっていたと思います。とても、辛い日々でした」
千夏の答えに対して、柴はさらに続けた。
「それは、四人一班で作られていたんじゃないのか?一班の年齢はさまざまだが、減れば新たな人が加わる。だから、班の中で世代はばらばらだ。五班あり、三人の指導者と二人の補佐官が支配している。身の回りの労働も、訓練も班員でこなす。名はない。一人前と認められた時に、与えられる。早い者は十歳で名を与えられる」
千夏の目の色が変わり、柴の声に熱がこもる。
「どうして、それを……」
柴の声は強い。
「杉や松に見覚えはないか?萩や俺は知らないだろうが、杉や松にに覚えがあるんじゃないのか?千夏、お前がいたのは、影の国の養成所だ」
柴の呼吸が荒い。
「春市は五歳、私は四歳でした。だから、そんなには……」
しかし、千夏はゆっくりと続けた。
「でも、まさかとは思っていたんです。――だから、女手が必要だとか言って、戻ってきたのですから。昔、私は孤児を奴隷として扱う組織にいたと思っていました。そこで、とても優しくしてくれた人がいました。私よりも、六つか七つ年上で、いつも私を守ってくれていました。そんな彼女は、名を与えられ、連れていかれました。確か、名は……」
千夏は少し間をおいて、続けた。
「杉」
千夏の声は震えていた。