表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
730/785

赤と医療(9)

 悠真は何も分からない。命を扱う力さえ持つ雪の国。生と死の境さえ越えようとする雪の国。その雪の国の術士であるアグノ。ここに白の色神もいて、白の石もあるのにどうして助からないというのだろうか。


 一番に動いたのは、冬彦だった。

「ソルト、白の石だ。使ってみなきゃ、分からないだろ!」

言うと、冬彦はアグノに駆け寄った。白の石の光が輝く。アグノの背に突き立てられた刀が抜け落ちる。


「アグノ」


白の光が消えたとき、そこには静かに息をするアグノの姿があった。良かったと、悠真は思った。人の死ぬところなど、見たくない。

 アグノは目を開き、体を起こした。しかし、そのまま、崩れ落ちた。


「代償です。ソルト。この心臓は、わずかな距離を歩くことが精一杯の心臓。もう、ソルトの役に立てあません」


アグノはもがくように体を起こすと、床に額をつけて白の色神に頭を下げた。


「どれほど、完璧に白の石を使っても、何度も、何度も、数えきれないほど白の石を使うことで、代償は蓄積されます。この心臓はもう、治りません。ソルト、申し訳けありません」


白の色神は何も言わない。冷たさを覚えるのは、悠真の後ろの部屋に溜まった冷気だけではないだろう。どうしようもない状況など、悠真は何度も経験してきた。それでも、目の前に起きている状況が、アグノの心臓が悪いということが、目に見えないからこそ悠真は理解できないのだ。もしかすると、誰も理解をできていないのかもしれない。ここでアグノが詳細を話したとして、雪の国の医師であるアグノの言葉を、どれほどの人が理解できるというのだろうか。圧倒的に、火の国は雪の国の医療の面で遅れているのだから。

 官府でアグノは白の石を使用することを拒んだ。アグノは分かっていたからだろう。白の石を使うことで、動けなくなることが分かっていたのだろう。だから、萩たちを助けるために、白の石を使用することを拒んだ。口を開いたのは紅だった。


「火の国には、こんな言葉がある。命があるだけもうけもの。困難なことは後で考えて、今はその喜びだけを感じるんだ。――義藤。まだ動けるな。柴も自分のことは自分でしろ。私は疲れた。皆、疲れたはずだ。義藤、アグノを連れて部屋へ。アグノが前に使っていた場所でいいだろう。冬彦、お前も白の色神と一緒に行くんだ」

紅が言葉を発すると、鮮烈な赤色が辺りを満たした。その心地よさを逃さないように、悠真は大きく息を吸った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ