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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と医療(8)

 障子が開く音がして、悠真は振り返った。そこに立っていたのは、冬彦だった。そして、義藤がアグノを支えている。

「皆、無事ですよ。今はまだ、眠っていますが、すぐに目を覚ますと思います。どうか、温かい場所へ連れて行ってあげてください」


言った、アグノの唇は震えており、顔色は青白かった。目もどこか虚ろだ。背中に突き立てられた刀はそのままで、アグノは体を震わせていた。


「アグノ、白の石を……」


白の色神がアグノにすがった。アグノは地に座り込むように膝をつくと、白の色神の頭を撫でた。

「ソルト、聞いてください」

アグノの声は弱い。

「アグノ、白の石を!」

訴える白の色神をアグノは制した。

「いいですか、ソルト。聞いてください。白の石を使わなければ、この命は失われるでしょう。ですが、白の石を使っても助かる保障はありません。ですから、ソルトに一言、伝えたいのです」

悠真はアグノの言っている意味が分からなかった。それは、他の人も同じようで、誰も何も言えない雰囲気が漂っていた。

「ソルト、医学院で出会ったときから、貴女は強い子でした。どのような苦痛にも耐えて、白の色神となってからも医学院を廃止し、雪の国を導こうとしてくれました。民の声は城に届かずとも、民は貴女に感謝しています。雪の国は変われます。人道を持って、変われると。それを、貴女が教えてくれたのです。ですから、何があっても生きてください。貴女が医学院で生まれる前から、私は貴女の幸せを願っていたのですから」


アグノは言うと、床に倒れこんだ。


「アグノ……。白の石を使って助からない、ってどういうことなの?」

白の色神は戸惑い、動けずにいるようであった。


「医学院での実験から、幾度となく白の石で命をつないできました。ですが、私の体は着実に壊れていたのです。完璧に使われたはずの白の石でも、その回数が計り知れないほど多ければ、僅かな代償は支払われます。私は、心臓に致命的な欠陥があります。雪の国を立つ前、後一度が精一杯だろうと思っていました。私は、火の国で一度、白の石を使いました」


アグノは言うと目を閉じた。悠真の耳に届いたのは、アグノの弱い呼吸の音だけだった。


 白の石はいかなる傷や病さえも癒す。しかし、白の石の力を完全に引き出すことは難しい。だから都南は術の力を失い、だから佐久は運動能力を失った。義藤は傷の程度から代償を支払わずにすんだ。しかし、瀕死だった秋幸は冬彦が白の石の力を完全に引き出すことで命をつなぎ、代償も支払わなかった。


 白の石とはそんな力だ。命を救う、力。

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