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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と医療(5)

 一度心臓が止まる。

 それはどんな気持ちなのだろうか。


 悠真は思った。今の世と死の世の挟間なのだろうか。悠真の村には、太之助という壮年の漁師がいた。仲間とともに海に出て、網を上げる途中で海に転落した。泳ぎの達者な太之助であった。穏やかな海であった。しかし、太之助は溺れた。仲間が海から引き上げたとき、太之助は息をしておらず、心臓は動いていなかった。

 誰もがの太之助は死んだと思った。死んだ太之助は村に連れて帰られ、悠真は祖父と一緒に太之助の訃報を聞いた。悠真が七つのころだった。しかし、太之助は陸に上がってしばらくしてから目を開いたのだ。


――一度死んで生き返った太之助。


村の人は太之助をそう呼んだ。悠真は一度死んで生き返った太之助に興味があった。太之助に死んだときのことを尋ねると、太之助は笑っていた。

(夢を見ていただけさ。海の冷たさの中、目を閉じて、夢を見ていただけさ)

太之助が教えてくれたのは、それだけだった。



 なぜ、こんな時に太之助のことを思い出すのか、悠真には分からない。一度死んで生き返る。一度心臓が止まっても生き返る。そんなことが雪の国では出来るのだ。


「一度死んで生き返るなんて……」


悠真は思わず言った。それは、小さな独り言であったのに、辺りが静かだったから周囲に聞こえるには十分だった。白の色神が小さな声で言った。


「死ぬっていう定義にもよるけれど」


白の色神が続けた。


「雪の国では、心臓が止まっても死んだと言わないわ。心臓の手術をするときは、心臓をあえて止めて、一時的に機械の心臓を使用するわ。今回、アグノは火の国でそれをしているだけ。もし、心臓が止まって死んだというのなら、私は何度も死んでいる。そして、何度も生き返っているってことになるでしょ」


白の色神の白に近い髪の色が、白の色神をとても儚く美しい存在に見せた。

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