白と影の国の戦い(12)
赤の色神の声が響く。
「野江!空挺丸を用意しろ!柴、シュドリードを運べ!義藤、アグノを空挺丸へ!」
そして、赤の色神は紫の石に向かって言った。
「遠爺、事態が変わった。葉乃に伝えてくれ。薬の用意だ。麻酔を用意してくれ」
義藤と黒の色神がアグノを空挺丸へ運んでいた。当然のように、影の国の術士も手を貸してくれていた。
ソルトの足は震えていた。なぜ、震えているのか分からない。そんなソルトに手を貸してくれたのは冬彦だった。
「秋幸、動けるか?」
赤の色神が疲れ果てた秋幸を気遣っていた。
「紅、俺たちは馬で帰る。悠真も連れて行く。野江、後は任せたぞ」
柴はシュドリードを空挺丸へ投げ込むと、義藤と共に空挺丸から降りた。
「冬彦は乗っておけ。白の色神もそちらの方が気安いだろう」
そして、空挺丸は飛び立った。
ソルトは初めて空を飛んだ。大部分の人は空を飛んだことなどないだろう。空から見た火の国の街並みは霞んでいた。それはきっと、ソルトの目が霞んでいるからだ。ソルトは、揺れる空飛ぶ船の中、アグノに歩み寄った。
「アグノ」
アグノは肩で息をしている。なぜ、アグノが白の石を使うことを拒むのか分からない。
「アグノはうつ伏せで木箱にもたれかかり、ソルトはその腕にアグノはしがみついた」
ソルトはアグノの腕に額をつけた。そうすると、アグノの温もりがすべて伝わってくるような気がしたのだ。
「ソルト、大丈夫です。白はなんとも美しい色なのでしょう。白はすぐに汚れます。白い布は土がつけば、その茶が目立ち、白い布は食べ物をこぼせば落ちない染みになります。それでも、ソルトは白です。医学院を廃止し、これからも白を守る白の色神なのです」
アグノの言葉が温かい。
これから、アグノがすることにソルトの力は必要ない。ソルトに出来ることは何もない。