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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の迷い(6)

 紅に生きて欲しい。


 四人の隠れ術士に生きて欲しい。


 二つの相反する願いの中で迷いながら、悠真は答えを探し、紅を思った。


 悠真の迷いに気づいているのか、秋幸はそっと話題を変えた。義藤のようなぎこちない話題転換でなく、秋幸らしい話題の切り替えだった。

「それにしても驚いたな。噂には聞いていたけれど、本当に義藤が朱護をしているんだから。昔の義藤は紅を心から憎んでいたから。先代が死ねば、色神も別人か。それとも、今の紅に義藤の個人的な感情があるのか分からないけれどね。俺たちが知っているのは、もらわれていく前の義藤だから」

秋幸は義藤に目を向けて小さく笑った。

「義藤と一緒に育ったのは、本当に子供の頃だけだけど、俺は義藤に鍛えられたな。そのたびに、忠藤が助けてくれていたよ」

悠真は首をかしげた。義藤に兄がいた。死んだ兄だ。義藤が忠藤の死に対し、深い後悔の念を抱いていることは知っていた。

「忠藤?」

悠真が尋ねると、秋幸は苦いものでも噛み潰したような表情をした。

「忠藤は落ち着いた、とても優しい人だった。死んだらしいけどね。分かりやすいだろ。忠藤と義藤の二人合わせて忠義になるんだから。義藤は嫌っていたよ。何に忠義を尽くすんだって」

秋幸は義藤をじっと見つめていた。それは、義藤自身も話していたことだ。秋幸と義藤に面識があることは紛れも無い事実であった。

「今でも信じられない。忠藤が死んだなんて。俺は忠藤が大好きだったんだ。子供の頃の俺は、とても寂しがり屋だったから、忠藤はいつも一緒にいて、助けてくれていた。俺が事故に巻き込まれたとき、庇ってくれた。本当に信じられない。死んでしまったなんて。それでも、義藤が生きていてくれただけで良かった。だからね、死なせたりしないよ。義藤はこんなところで命を落としちゃいけない存在なんだ」

悠真は思った。彼らは本当に義藤の子供の頃を知っているのだ。一緒に育ったのだ。秋幸が辛そうな表情をするから、悠真は話題を変えようと考えた。けれども、不器用な悠真は、秋幸のように普通のことを言えない。

「俺は悠真だ。言っておくが、小猿じゃない」

悠真が頭を捻らせて考えた言葉に秋幸は笑った。

「俺は秋幸。知っているだろうけど」

秋幸は人の好きそうな笑みを浮かべた。

「秋幸たちは殺されるのか?」

悠真は恐る恐る尋ねた。秋幸はそんな悠真を見て笑った。

「きっとね。何度も言ったとおり、俺たちは紅の命を狙った。朱軍や陽緋、赤影に殺されても文句は言えない」

悠真は、秋幸のことが分からなかった。どうして、自分たちが殺されると簡単に言えるのだろうか。

 

 悠真と年齢の近い秋幸は、とても話しやすく、悠真の中でばらばらだった物が一つにつながり始めた。義藤のことが分かり始めた。理解すれば理解するほど、悠真はこの状況を打開するために頭を働かせた。二つの相反する願いをかなえるために、どうすれば良いのか、悠真は必死で考えた。どうすれば秋幸たちも、紅たちも助かるのか。一体誰が悪いのか、なぜ悠真の故郷は滅びなければいけなかったのか、なぜ祖父と惣次は死ななくてはならなかったのか。何もかもが変だった。秋幸たち隠れ術士も、紅も、もちろん死んだ祖父や惣次も悪い人で無いのに、なぜこのようなことになったのだろうか。悠真には分からない。理解できない。なぜ、秋幸たちが紅に刃を向けたことは事実だ。けれども、秋幸たちが死ぬことには反対だった。

「誰もがおかしい」

悠真は言った。秋幸が不思議そうに悠真を見ていた。

「思うんだ。紅たちと、秋幸たちが敵対する必要はないんだ」

秋幸は言った。

「許せるのか?俺たちは大切な人を守るために、紅を殺そうとした。……それに、他にも多くの人を殺したんだ。村を滅ぼしたんだ」

秋幸は目を伏せ、とても苦しそうな表情を見せた。悠真の故郷を滅ぼした秋幸たちは、罪を負った。決して逃げることが出来ない罪を負ったのだ。滅ぼした村のことで苦しむ秋幸は、そのなかの生き残りが悠真だと知らない。悠真が復讐をするために紅城まで足を運んだことを知らない。復讐のために紅城に来たから、二年前の戦いのことを知らないという事実を知らない。


 大切な人を殺された悠真の傷

 罪の無い人を意に反して殺した秋幸たちの傷


 どちらも大きな傷だ。秋幸は平凡な天才だからこそ、大きな罪悪感を覚えているのだ。何が悪いのか。秋幸たちを殺せば解決するのか。悠真は何も分からなかった。


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