白が見る赤(10)
何もかも白く美しく覆い隠す雪。しかし、その雪の下には、さまざまな物が隠れている。寒さで凍え死んだ命も覆い隠す。そして、その白の下に隠してしまうのだ。
アグノも白の術士だ。白と同じなのかもしれない。汚いものを、醜いものを、残酷なものを白で覆い隠す。優しくソルトを守ってくれるアグノも、その白の下に様々なものを隠しているのだ。それが、低い声で話す、この残酷なアグノなのかもしれない。
「シュドリード、無駄です。あなたに逃れる術はありません。――教えていただけますか?影の国への連絡経路、そして、このチームの言動がどの程度影の国に伝わっているのか、何が生じれば、影の国は兵士が死んだと判断するのか。そして命じてください。萩に己の意志で生きるように。松とベルナに、自由になるように」
シュドリードは叫んだ。
「そんなこと、できるわけないだろ!杉!戦え!戦え!」
シュドリードは杉に命じた。しかし、杉は動かない。だからかもしれない。シュドリードは自らの手で刃物をとった。しかし、シュドリードは戦う力に長けていないようで、横から割り込んだ柴によって容易く押さえつけられた。
「手を出して悪いが、俺も影の国と無縁とは言えない存在だからな」
柴は言い、そして不敵に笑った。
「顔はすっかり忘れていたが、その名に聞き覚えはあるぞ。シュドリード。そうだ、思い出した。シュドリード。対外事実務統率者一級幹部シュドリード。なぜ、一班長でおさまっている。そんなもの、影の国の一兵卒が最初に負う役職だろ」
柴の言葉から、彼が間違いなく影の国の術士であったことが示される。影の国に精通しているのは事実なのだ。
「先程、戦ったときに言っていました。彼は二年前の襲撃の生き残りです。考えられる理由は一つだと」
割って入ったのは、赤の術士「義藤」だ。彼の力はソルトも知っている。
「へえ、降格させられたのか、シュドリード。二年前の襲撃は痛い目を見せられたが、あんたが統率者で良かったよ。だからこそ、俺たちは影の国を迎撃できたのかもしれないからな」
柴の声は強かった。