白が見る赤(6)
アグノが何をするつもりなのか、ソルトは分からない。ソルトは白の色神だが、アグノはいつもソルトを子供扱いするのだ。今回も同じだった。
「ありがとうございます」
アグノは、三人の赤の術士に礼を言った。そして、ゆっくりと続けた。
「萩は囚われています。そして、二人は薬の副作用によって動くことができません。彼は術が使えないでしょうから、問題ありません。――私は今から残酷なことをします。雪の国の医学院で働いていた、医学博士らしいことをします。だから、どうか、ここは私と彼らだけにしてください。問題ありませんから」
アグノは続けた。
「ソルト、白の石をいくつかいただけませんか?」
アグノは何かをするつもりだ。そもそも、雪の国によって奴隷兵士として改造された彼らに、アグノは何をするつもりなのか。アグノはいつもソルトを危険から遠ざけようとする。それがアグノの優しさであり、それがアグノの常なのだ。ソルトはこの場にいたかった。それでも、アグノの優しさを知っているから断ることができない。ソルトはいくつかの白の石を取り出し、握りしめた。
「赤の色神、あなた方も離れていてください。どうか、ここは彼らと私だけにしてください」
アグノは丁寧な口調で赤の色神に話した。
げらげらと笑い声が響いた。それは、赤の色神の笑い声だ。
「私たちにも離れろと?」
笑っているはずなのに、赤の色神の声は強い。不思議と恐怖を覚えた。空気がピリピリと張り詰める。赤の色神の鮮烈な赤色が辺りを満たしているのだ。
赤の色神は自身の信念の元に行動している。ソルトが己の信念を貫いたのは医学院の廃止という一点だけだ。雪の国は、白の色神を崇拝している。そして、国家としての体制が整っているから、本来、色神は白の石を生み出すだけでいいのだ。火の国の赤の色神と異なり、白の色神の意志や信念は必要とされない。術士を統制する力も必要とされない。必要なのは、雪の国のために白の石を生み出すこと。
医学院を廃止した時点で、ソルトは己の信念を果たしたつもりだったのだ。