白が見る赤(4)
ソルトが見る赤の色神の姿。ソルトの不安は、純白の雪原の上の落ちた一滴の墨のように小さなものだった。
――私が赤の色神の間にしなければならない。
赤の色神は口にした。それは些細な表現の一つかもしれないが、ソルトは先刻、倒れる赤の色神の姿を見ていた。その光景が、一抹の不安を大きくしていく。雪原が侵食される。不安がソルトを駆り立てる。
赤の色神はまだ若い。ソルトよりも年齢は上だが、病死や老衰を心配するような年齢ではない。戦いを常とする宵の国でもあるまいし、何より彼女の周囲には優れた術士が大勢いる。下手に殺されるような御仁ではないだろう。ならば、なぜ赤の色神は次をきにするのか。自らの時代の終焉を予見するような発言をするのか。
ソルトは赤の色神をを見つめた。精悍な顔立ちの、凛々しい女性。自らが戦うことを厭わない。それが、紅だ。ソルトが決してなることはできない存在だ。同じ色神であっても、まったく異なるのだ。選ぶ色神まで、色の素質が関与しているのかもしれない。
「心から感謝しています。赤の色神」
ソルトはそれ以上、何も言えなかった。鮮烈な赤の色神の一色は、白の石を使うことで今は安定を示しているが、それは一時的なこと。白が言っていたのだから、間違いない。
「礼を言われることは何もしていないさ」
赤の色神は微笑んだ。とても強い笑みだ。そして彼女は続けた。
「白の色神はいくつもの白の石を提供してくれた。それによって、赤の術士が救われたのは事実なのだからな」
ソルトは赤の色神の強さを見せつけられたような気がした。彼女がいるから火の国は盤石だ。色神という存在が火の国を支えている。色神が国を支える。白の色神として、ソルトは雪の国を支えることができているだろうか。白の色神として、雪の国の民の命に責を負うことができているだろうか。
まだ、やめたくない。
ソルトは思った。まだ、白の色神として生き続けたい。そして、己の手で、雪の国の民の命を支えたい。生活を支えたい。医学院がなくとも、雪の国の医療は民を支えることができるのだと、信じたい。
影の国の囚われた、数名の民のために赤の色神が危険を顧みないように。
ソルトは、医学院の実験体のために危険を顧みることはできない。
医学院の実験体だった色神として……。