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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の迷い(5)

秋幸は平凡なのに、悠真には分からないほど深いところで物事を考えている。

「紅が信頼している術士は少ないのは事実。おそらく、陽緋の野江、朱将の都南、朱護頭の義藤、そして先の朱護頭の佐久。紅を支える遠次。からくり師の鶴蔵。そして加工師の柴。赤丸と赤丸率いる赤影。俺が見つけ出したのは、それくらいだけれども、おそらく間違いないでしょ」

悠真は秋幸に尋ねられ、うなづいてしまった。それは紅の内情を伝えることになるが、秋幸は全てを知っているように思えたのだ。

「紅の手駒は少ない。もっと増やさなきゃいけないけれども、そう簡単にはいかない。それに、二年前の戦いで紅の仲間が失ったものは大きい。それでも紅を守るために戦ってくれる、そんな存在は容易く現れない」

また、二年前の戦いだ。と悠真は思った。昨日の昼も、二年前の戦いのことを話していた。その戦いが大きなものであることは分かっていたが、野江が話そうとしなかった。悠真がずっと気になっていたことだ。赤の仲間たちが二年前の戦いで負った傷だ。それは赤の仲間たちが秘密にしたい個人的なことであるが、悠真はそれが気になっていた。


――二年前。


その言葉が呪文ののように悠真の中で広がるのだ。佐久が先の朱護頭ということも気になる。日常生活で支障が出るほど佐久は身体を動かすことが苦手だ。いつも誰かが佐久を支えていた。そんな佐久が朱護頭として戦えるとは思えなかった。少なくとも、刀を持ったときに倒れてしまいそうであった。紅がそんな無茶苦茶な任命をするとは思えない。全ては二年前に関係している。悠真はそのように思った。

「ねえ、二年前の戦いって?」

すると秋幸は首をかしげた。

「二年前の戦いを知らない?それはどういうこと?」

秋幸の言葉に悠真はたじろいだ。平凡な印象の秋幸に全てを見透かされているように思えたのだ。そもそも、秋幸の見た目は平凡だがその実は違う。佐久と同様の天才だ。二年前のことを知らないことを話すのは、悠真の正体を伝えるようなことだ。それは避けなくてはならない。なぜか、そう思った。


 秋幸はそんな悠真の心情さえ見抜いているように、小さく呟いた。

「良いんだ、二年前の戦いの戦いを知らなくたって、もうすぐ死ぬだろう俺には関係の無いことなんだ。ただ、伝えておきたかったんだ。紅に、伝えて欲しいんだ。官府と寄り添うための方法をね。無理なことだとは理解している。だって、紅には手駒が少ないから。信頼できる術士を一人でも遠くに置くことは、紅自身を危険にさらすことだから。それに、役職を得ている野江、都南、義藤の三人を官府に派遣することは出来ない。一人に複数の役職を任せることは可能だが、現状では負担が大きすぎる。そして、年齢を経た遠次が官府に行くことも、日常生活に支障が出るほど身体を動かすことが苦手な佐久が行くことも不可能だろ。でも、一つ案として知って欲しいんだ。義藤が命を惜しまず守る存在が、少しでも生きることが出来るように。伝えてくれないか?俺たちが殺された後、紅と再会を果たせたのなら」

悠真は混乱していた。秋幸は紅を守るための手段を知っている。紅城の中にいたら気づかないことに、外部にいるから気づいているのだ。秋幸は誰かに守られる存在でなく、わずか四人で戦って生き抜いている。だから気づくのだ。外から見て、気づくのだ。


 それは紅だって同じこと。無知な悠真を守るために案を講じてくれていたのだ。術士の世界は辛く悲しい。隠れ術士の秋幸を通じて隠れ術士の立場を知り、秋幸の話で正規の術士の立場を知った。そして、秋幸の話で紅が生きるための道を知った。


 悠真は紅たちに守られていた。


 紅が悠真に惣次の石を渡したのは、悠真が自分の身を守ることが出来るように。

 完全な術士にして、悠真の未来を奪わないように。

 野江が最初、悠真を紅城へ招くことを拒んだのは悠真を術士にしないために。

 それでも、しぶしぶながら紅城へ招いたのは、力のある悠真が悪用されるのを防ぎ、悠真を守るため。


 紅城へ行けなければ、悠真は手当たりしだい紅の石で己の力を暴走させていただろう。それは、瞬く間に悠真の名を世間に知らしめ、悠真は何者かに利用されていた。都南が悠真を自分の下へ預けるように言ったのは、悠真に正しい力の使い方を教えるため。佐久が悠真に義藤と一緒にいるように言ったのは、義藤が悠真に近しい立場だから。義藤が瀕死の重傷を負ったのは、悠真を守るため。悠真は皆に守られていたことに、ようやく気づいたのだ。気づかなかった悠真はとても無知で、気づかなかったが故に悠真は幸せだった。紅たちは復讐に息巻く悠真をどのような目で見ていたのだろうか。愚かだと思ったのか、是非もないことだと思ったのか、悠真に図り知ることは出来ない。悠真は紅城で何の不自由も無く、気遣いもなく過ごすことが出来た。義藤の石を使って力を暴走させても、紅は一言も怒らなかった。むしろ、笑っていたくらいだ。悠真は紅たちに守られていた。


 悠真も紅の力になりたい。この秋幸の言葉を紅に届けたい。秋幸のためにも、届けたい。悠真はそれを願った。願いをかなえるためには、自らが生き残り、そして四人の隠れ術士も生き残らなくてはならない。官府にある派閥を知っているのは秋幸だ。だから、四人の隠れ術士も生き残らなくてはならないのだ。


 それは、義藤を傷つけた隠れ術士を憎む気持ちと相反する気持ち。二つの気持ちの迷いの中で悠真は足を進める覚悟を決めた。

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