緋色と色神(9)
アグノが口を開いた。
「影の国の術士は、萩一人ではないでしょう。他の術士はどちらですか?」
アグノの言葉に義藤が答えた。
「三人、萩と同じように押さえている者がいます。松、べるな、あと一人老人です」
義藤が丁寧に答えた。その名は野江も知っている。杉が教えてくれた名だ。
「野江、柴、義藤。残る三人を連れてきていただけますか?」
アグノに依頼されたから、野江は義藤に目を向けた。三人の場所を知っているのは義藤だ。
「わかりました。柴、野江、こっちです」
義藤が野江と柴に軽く頭を下げて手招いた。
野江が見たのは、戦いの後だった。水浸しの土の上、二人の若い男女た土に押さえられていた。
「お前の仕業か?」
柴が苦笑しながら、義藤に言った。
「押さえつけたのは、秋幸です。俺じゃありませんよ」
義藤が答えた。当然だ。義藤が黄の石を持っているかどうかさえ怪しい。義藤も野江も赤の術士だ。紅の石との相性が良いのだから、他の石は基本的には持っていない。鎖国をしている火の国にとって、他色の石は高価であるし、持っていたところで十分な力が引き出せないのだから、他色の石は佐久に渡されるのが当然の流れだ。
今、この場には三人の術士がいる。この三人に都南と佐久が加われば、紅城を動かしている中枢の術士が勢ぞろいといったところだ。だからこそ、野江は自らと同じ不安が彼らにもあるのか確かめたかった。だが、野江にはその勇気がない。口に出した時点で、不安が現実になってしまうような気がしたからだ。