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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の迷い(4)

 悠真は義藤の生い立ちを知った。そして、秋幸たちと義藤の関係を知った。それらを知って思うことは、彼らを死なせたくないということだ。


 彼らは自分たちの存在が義藤に知られることを避けようとしている。今、義藤は眠っている。このまま彼らが敗れ命を落とせば、義藤はあの夜に戦った四人の隠れ術士の正体を生涯知ることは無いだろう。万一、知ってしまえば、優しい義藤のことだ。どれほど悲しむか目に見えて想像できる。だから彼らは己の存在を隠そうとしているのだ。

「術士って、もっと素敵なものだと思っていた」

思わず悠真は呟いた。術士の才覚があれば、世界は変わるだろう。術士として生きることが出来れば、世界は輝くだろう。悠真は漠然とそのようなことを考えていたが、現実は違う。


 術士の才覚を持つことで戦いを強要される。

 術士の才覚を持つことで権力者に利用される。


 術士として生きることは辛いことばかりだ。秋幸たちの存在がそれを示していた。彼らは強く、そして残酷な現実と向き合っている。謎の女術士が秋幸たちを山へ隠した理由が分かった。孤児であり、戸籍を持たない彼らが、隠れ術士として利用されることを防ごうとしたのだ。なのに、結局利用されている。

 皮肉なことに、色神紅と敵対する官吏に利用されているのだ。そして、色神紅を守る義藤と刃を交えることになったのだ。


 皮肉なことだ。


 悠真は秋幸を見た。秋幸は気の良さそうな人だ。年は悠真より二つ上なのに、同じくらいに見える。それだけ気さくで穏やかだ。彼らは大切な者を守るために戦っている。それが意に反していても、自分たちの命を失うことに繋がるとしても。悠真には出来ない決断だ。無力な悠真は、故郷を破壊した復讐をすると息巻くだけで、何も出来ず結局のところ義藤を傷つけてしまった。今の状況を作り出してしまった。誰かが守ってくれなければ、何も出来ない。

 悠真のことを祖父が守ってくれていた。惣次が守ってくれていた。村の人が守ってくれていた。そして火の国という国家が守ってくれていた。けれども、彼らは違う。国から存在を認められず、家族もおらず、四人で身を寄り添って生きて生きたのだ。


 秋幸は悠真に笑いかけた。その微笑みは術士に憧れを抱く悠真をたしなめるようで、術士の現実を悠真に伝えるようであった。

「そりゃあね、術を使えない人が術士を見たら、とてもうらやましく感じるだろうね。無限の可能性を持つ色の石を使い、強大な力を作り出す。術士として火の国から立場を保障され、生活に困らない。――けれども、現実は違うものだよ。そうだね、でも、矛盾しているかもしれないけれども、俺は術が使えて良かったかな。今日、紅に殺されるとしても、術士だから俺は俺らしく生きることが出来た。春市や千夏、冬彦と出会えた。この力がなければ、俺はとっくに路上で死んでいたかもしれない。力があるから、女術士に拾われたんだからね。この力が俺を生かし、俺を殺す。そういうことだね。無防備な力は、何よりも危ういものなんだから」

秋幸の言葉は悠真の中に秋幸という存在を大きく存在付けるのだ。

「火の国は平和な国だと思っていた。生活に困窮すれば近所の人が助けてくれる。それでもどうにもならなければ、火の国が助けてくれる。術士が助けてくれる。そう思っていたのに」

悠真は火の国のことを何も知らなかったのだ。火の国の真の姿は温かいものではない。これまで知っていたのは、色神紅が守る火の国の一部の姿でしかないのだ。秋幸は眠る義藤に目を向けて優しく笑った。

「どうかな。基本的に火の国は平和だと思うよ。民を巻き込んだ大きな戦があるわけじゃない。物資に困窮して餓死する民が大勢いるわけじゃない。治安が悪く悪行が横行するわけじゃない。悪政なわけじゃない。色神紅が守り、官府が政治を行う。色神と官府の二重政治は事実だけれども、それが民に悪影響を与えているわけじゃない。今以上の平和を望んじゃいけない。これ以上、紅に負担をかけちゃいけない。そしてこれ以上官府に負担をかけちゃいけない」

悠真の頭に疑問符が並んだ。なぜ、秋幸は官府の心配をしているのだ?紅と出会った悠真にとって、官府は悪でしかない・

「官府に負担?」

思わず問い返した悠真に秋幸はゆっくりと答えた。

「官府で働く官吏であったって、あいつのような悪い奴だけじゃない。火の国を支えるために、必死で働いている者もいるんだ。――もっとね、寄り添えばいいのに。っていつも思うよ。紅と官府は寄り添って、人事の交換をしてみてもいいと思う。紅が官府に術士を派遣し、官府は紅に官吏を派遣する。興味があってね、官府の中に進入したことがあるんだ。官府の中にも複数の派閥がある。その中には紅に寄り添おうとしている派閥もある。もちろん、小さな弱小派閥だけれども。紅はその派閥を見つけられないんだ。そして、自分の信頼する術士を簡単に派遣することも出来ない。今紅が持っている信頼できる術士は少ないし、その術士は紅を守るのに必要な力だからね。紅と官府が寄り添うことが出来れば、もっと紅は生きやすくなる」

悠真は目を見開くことしか出来なかった。秋幸は官府に侵入して、内情を探り、そして解決策を探している。

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