緋色と色神(4)
紅は威風堂々と現れた。紅が歩むだけで、あたりに赤い色が零れていく。ここが赤の国だと知らしめるかのような存在。それが紅なのだ。
「野江、紅の石は柴から受け取っただろ。頼んだ」
紅は強く言い放つと、身軽な動作で空挺丸に乗り込んだ。アグノや杉も続く。当然のように黒の色神もいた。そうそうたる顔ぶれといったところだろう。
野江は紅の石を取り出し、その石を空挺丸の中枢へと置いた。空挺丸は、稀代のからくり師鶴蔵が作った逸品だ。紅の石の力を動力へと変えて、空を自由に飛ぶ。ただし、空挺丸を動かすには、強大な紅の石の力が必要で、空挺丸を動かすことが出来る術士は限られている。だからこそ、この船は野江が使うことが多い。鶴蔵が時間をかけて作り上げたからくりだ。この空挺丸を操り、風を切ると野江は何とも言えない気持ちになるのだ。
今回の空挺丸の旅は紅城から官府までの短い旅だ。そこから、そこまでの短い距離。
「柴が戦っているな」
紅が空挺丸の欄干に頬杖を突き、官府の方向を見つめていた。
「義藤の方は、赤丸の乱入で片付いたようだが……」
紅の低い声だ。どこか、呆れたような声色だった。
紅は色神だ。野江の知らない力を持っている。紅は分かっているのだ。官府で誰の石が使われているのか。その石が義藤の石なのか、赤丸の石なのか、柴の石なのか、紅が生み出した石だからこそ紅は分かるのだ。
それは一体、どのような世界なのか。どのような感覚なのか。ただの人間である野江には、紅の気持ちなど分かるはずもない。
「野江、柴が戦っている。あそこに降ろしてくれ。――好きにさせてたまるか。そう思うだろ、野江。ここは火の国。赤の国なんだ。黒の色神も、そう思わないか?これ以上、好きにさせてたまるか」
紅に強い声だった。