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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色と色神(3)

 野江は手早く身支度を整えた。襦袢を羽織ると腰ひもで束ねる。今の時分では薄手のもので十分だ。野江は適当に、それでも手早く着物をまとった。帯は半幅帯でよい。袴をはくのだから。


 野江は身支度を整える。

 再び戦うために。


 野江は部屋の障子を開いた。思わず目を細めてしまうほどまぶしく感じるのは、野江がずっと部屋の中にいたからだ。それは、野江に昔を思い出させる。兄に抱き上げられていた幼い日々。兄が救い出してくれると信じていた幼い日々。今の野江を見て、兄は何というだろうか。褒めてくれるだろうか。自慢に思ってくれるだろうか。


(野江、生きるということは戦うことなんだよ)


泣いている野江に、話した兄の言葉が野江の中に浮かんだ。


(だから、兄はいつも戦っている。父や、他の兄たちと戦っているんだよ)


兄はどこか悟ったような、とても優しい兄だった。


(だからね、野江。野江も戦わなくちゃいけない。自分の生きる道は、自分で切り開くんだよ。だから、ここに囚われていちゃいけない。野江が野江として戦うことができるように、兄が野江に手助けをするからね)


 兄が今、どこにいるのか知らないが、野江は外で生きている。兄が救ってくれたのだと野江は信じていた。

「兄様、野江は戦ってまりいます」

野江はがらんとした部屋に頭を下げて、外へと踏み出した。


 空挺丸の準備は遠次が行っていた。当然だ。今は、義藤も佐久も都南も出払っているのだから。野江は柴が加工してくれた紅の石を握りしめた。

「野江、無事じゃったか?」

遠次が微笑んだ。

「問題なくてよ」

野江は答えると、空挺丸に手をかけた。

「間もなく紅も来る。今日はおとなしくしていると言っていた紅が動くことを決めた。官府で柴が戦ってろうのじゃろうな。紅の表情が険しい。じゃが、ここには野江がいる。野江がいる。ただ、それだけでなんとも頼もしく思えるものじゃな」

遠次の言葉を聞きながら、野江は空挺丸に乗り込んだ。

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