緋色と色神(2)
白い石の光が輝く。アグノは雪の国の術士だ。アグノは白の術士。火の国の誰が使うよりも、白の石の力を引き出す。
野江の身体が軽くなっていく。失われていた手の感覚が戻っていく。熱を持った体も冷えて、脈打つような痛みが消えていく。どのような薬よりも、白の石の力は効果をもたらす。まさに、神の力だ。白の石が強大な力を持ち、雪の国が大国であることを野江に教えた。
野江は軽くなった体を起こした。眩暈も何もない。白の石の力ということだ。
「野江、休んでいる暇はない。すぐに立つ。空挺丸を動かす。官府へ行くぞ」
紅が立ち上がり、野江の枕元に畳んであった赤い羽織を掴んだ。そして、豪快に広げると野江に渡した。赤い羽織が美しく広がる。
「野江、頼んだ」
紅の後ろから光が差し込む。外の光に照らされた紅は、何とも美しく、赤い色を放っていた。野江はそんな紅を愛しく思い、布団の上に正座をすると紅に対して深く頭を下げた。
「空挺丸の準備をさせておく。アグノ、お前も一緒にくるんだ。杉も一緒に連れて行く。ここは火の国だぞ。赤の国だ。影の国の好きにさせてたまるか。野江、急いで準備をしろ。すぐに立つ」
紅が荒々しく足を進めた。その姿は野江にとって愛しくて、温かくて、何とも言えない気持ちになった。
野江はその気持ちに覚えがあって、記憶をたどった。よみがえるのは、兄の姿だ。野江は閉ざされた部屋の中で、兄を見送る時、いつもそのような気持になっていた。依存しているのだ。野江は理解していた。
幼いころ、野江は兄に依存していた。兄がいたから、今の野江がある。兄がいたから、野江は地獄の日々を生き抜くことができた。
そして今。野江は紅に依存しているのだ。紅がいるから、紅が必要としてくれるから、野江は歴代最強の陽緋として戦っていけるのだ。
野江は先代を守ることができなかった。
だから今度は、守って見せる。相手が影の国であっても、萩であっても、野江は戦うだけだ。