赤の裁決(7)
紅は黙っていた。
何も話さない。
何も口にしない。
しかし、紅に立ち止まることは許されない。紅は色神であり、先へ進むことを強いられた存在なのだから。悠真は紅の姿を見た。紅が強いられる運命と、歩むべき道を知った。色神という人でなくなった存在は、人と異なる苦悩を経験する。
「分かった、クロウ。私は、秤にかけるとするさ。火の国の平和な未来のために、影の国と関わらないようにするさ」
紅は萩からゆっくりと距離をとった。
「アグノ、雪の国の医学院とやらの罪、しっかりと償ってもらう」
紅の声は強い。火の国のために手を引いたとはいえ、紅は色神としての威厳を失っていない。色神「紅」という立場とは別に、彼女という人自身が、強さを持つ人なのかもしれない。
紅は強い存在だ。
その赤に引き込まれる。
紅は赤に愛されている。
「ありがとうございます。赤の色神」
アグノは深く、紅に頭を下げた。紅はアグノを見つめていった。
「それで、アグノ。私の手助けは必要だろう。いや、違うな。赤の仲間の手助けが必要だろう?私に力を貸す、優れた力を持つ赤の術士が必要だろう?」
紅は試すようにアグノに言い、そして柴、野江、義藤に目を向けた。
「柴、野江、義藤。アグノの指示を聞け」
ただ一言、紅は三人に命じた。赤い羽織をまとった、三人の優れた術士が紅に頭を下げた。
「アグノ、三人の力を好きに使え。私が持つ、優れた三つの力だ。都南と佐久がいないのが残念だが、三人でも、他国の術士に引けを取らない優れた力だ。――好きに使え。ただし、死なせるなよ。三人は道具じゃないからな」
悠真は最後の一言に鳥肌が立った。
冷たい雪と氷に閉ざされた雪の国。
大国を支える優れた医療技術。
医療技術を支える非道な行動。
紅がそのことを気にしていないはずがない。