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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤の裁決(3)

 雪の国は医学国家だ。悠真でもそのぐらいは知っている。佐久や義藤らが教えてくれたからだ。野江を救ったのもアグノと薬師葉乃だと聞いた。雪の国の民であるアグノの知識が、野江を救ったのだ。

 それだけ、雪の国は医療の進歩した国だ。火の国は平和だが、人は病で簡単に命を落とす。疫病が流行れば、多くの死者が出る。鮫に噛まれて怪我をすれば、山で毒虫に刺されれば、人は命の危機にさらされる。悠真の母が死んだのも病によるものだ。医療の進歩した国は夢のような国だ。病や怪我を治療することができれば、人はもっと幸福になれるはずだ。誰だって、己の命や愛する人の命が大切なのだから。


 雪の国と影の国につながりがあるとは考え難い。


「影の国は雪の国にとって上客の一つでした。医療を進歩させるには、人の身体の仕組みを知るしかありません。人の身体の仕組みをしれば、自然と人の身体を操ることや、支配することにつながるのです。萩に施された手術も、人の身体を知り尽くした、人の身体を研究している雪の国だからこそ出来る手術なのです。雪の国は、人間の脳の仕組みさえ解剖して知ろうとしているのですから」


 悠真の胸が強く脈打った。体が解剖されて、実験される。それがとても恐ろしいことのように思えたのだ。それこそ、神の領域だ。火の国にも医師はいる。斬られれば針と糸で縫う。薬草から薬も作る。それでも、頭を切り開いたりすることは、人知を超えた領域のように思えるのだ。頭を開けば、人は死ぬ。それが悠真の見解だ。


 素人が行っては人が死ぬ。

 玄人が行えば、助かる。


 ならば、素人はどのように玄人になるのか。多くの死者の上に、人知を超えた医療があるのならば、それは何とも恐ろしいことのように思えた。


 アグノの言葉は重みをもって響く。それは、雪の国が神の領域に手を伸ばしているために生じる重みだ。


「脳をかき回された萩は、きっと命令に逆らえないのでしょう。それでも、自我がある。ですから、杉を救おうと野江に託した。命令に逆らえないのに、逆らえる必死の道を探して、自己の道を生きているのでしょう。ですから、どうか萩を責めないでください。彼が利用されているだけなのなら、脳をかき回されて命令に逆らえないのなら、その罪の一端は雪の国にあります。そして、医学院で一時でも医学博士として生きていた私にも罪はあるのですから」


アグノは謝罪するように萩に頭を下げた。

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